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コロナ禍で始まった2021年、どう動く?──ビール大手4社の業務用戦略はいかに?

2021年1月14日 1:28 pm

 

 新型コロナウイルスの感染拡大に悩まされているのは、外食産業を支えるメーカーも同じだ。外出自粛により家庭用需要は伸長する一方で、時短営業や休業を余儀なくされた業務用製品は苦戦を強いられている。

 コロナ禍で幕を開けた2021年、大手ビールメーカー4社はどう動くのか? 各社の業務用戦略はいかに──?

■キリンが業務用に〈氷結〉投入、小規模店向けサーバー「TAPPY」全国展開へ

 キリンビールは2021年、①強固なブランド体系の構築②課題解決による新たな成長エンジン育成──を掲げ、コロナ禍における環境変化に適応していく。

 ①の強固なブランド体系の構築では、基幹ブランドである〈一番搾り〉を「理想のおいしさに進化させる」(同社)ためにリニューアルし、2月製造分から順次切り替えていく。

 また、RTDの基幹ブランド〈氷結〉の業務用コンク(レモンコンク・無糖レモンコンク)を2月24日から投入し、飲食店現場のオペレーションや在庫負担低減などに寄与することを目指す。

 ②の課題解決による新たな成長エンジン育成では、昨年11月から愛知・石川・富山・福井・福岡・宮崎の6県でテスト展開を開始した小規模飲食店向け新サーバー「TAPPY(タッピー)」を、今年から全国展開する計画だ。

 「TAPPY」も3Lペットボトル入りだが、「タップ・マルシェ」と互換性はなく、注文も通常の樽製品と同様に特約酒販店への発注となる。

 同社の布施孝之社長は、「この『TAPPY』を通じて、新・〈一番搾り〉の浸透および、小規模店のフレッシュローテーション、洗浄の手間軽減、洗浄に伴うロス軽減、業務用酒販店の物流費軽減も実現できる」として、「おいしい」「かんたん」「オトク」をキーワードに、「TAPPY」の全国展開を進める。

 「全国展開の時期は未定だが、まずは現行の小規模飲食店の7L樽を置き換えていくことになる。新規開業者からの需要も高まっていくのではないか」(布施社長)とみている。

 「〈氷結〉については当面コンクに注力する」としており、当面、「TAPPY」での導入は無いという。

 「タップ・マルシェ」について布施社長は「コロナ禍の影響で『客単価を上げたい、利益を上げたい』という飲食店様の要望が我々の想像以上に高く、2020年の新設台数は6000台の目標を達成し、導入店は累計1万7000店程度に達した。今年も引き続き注力していくことに変わりはない」と語った。

 また、布施社長は今回の首都圏飲食店の営業時間短縮要請および緊急事態宣言発令についても触れ、「緊急事態宣言については内容がわからないので何とも言いようがないが、粛々と受け入れて協力していくしかない。ただ、業種・業態ごとに特性も異なるため、外食全般を一律ではなく、もう少し細かく、フレシキブルに対応する必要があるのではないかと、少し疑問を感じている。我々は外食の皆様と同じ目線で共に取り組んでいくしかない」とコメントした。

■アサヒ、〈スーパードライ〉樽生品質向上へ 新呼称制度も導入

 アサヒビールは今年、業務用の施策として、昨年にも増して〈スーパードライ〉の樽生品質の向上に注力する。

 塩澤賢一社長は「昨年、テイクアウトのお手伝いや友好企業に対しての弁当斡旋などを通じて外食産業への支援を行ったが、長続きしなかった。それよりも、店に来て頂いたお客さんに今まで以上においしい生ビールを飲んでもらうことが我々が継続的にできるサポートだと気付いた」とし、今年は昨年にも増して樽生品質を磨くことに集中していく旨を明らかにした。

 その活動を全国的に進める一環として、新たな呼称制度「タップエリート」も導入する。

 認定を受けた「タップエリート」は、飲食店での高品質な〈スーパードライ〉を提供するだけでなく、自らの言葉で〈スーパードライ〉ブランドの歴史や品質を語り、ブランドの魅力を発信していく役割を担う、いわば「スーパードライ・アンバサダー」といえる存在だ。

 今年度はさらなる樽生品質向上を目指し、この「タップエリート」の認定にも注力していく。

 また、全社的な取り組みとして、ビールの愉しさを広げる商品を家庭用を中心に発売し、ビール需要の喚起を図る。

 具体的には家庭で生ビールのおいしさを体験してもらうために、フルオープンのオリジナル「生ジョッキ缶」を開発。内側にカルデラ状の凹凸を焼き付けることで、「生ジョッキ並みのキメ細かな泡(約0.1mm)を実現した」という。中身は〈スーパードライ〉。

 缶は350ml缶と同サイズだが、中身は泡の分を空けており340mlの入り身となっている。4月6日からコンビニエンスストアで先行発売し、4月20日から全国発売する。

 もう1つが、アルコール分0.5%の“微アルコール”ビールテイスト飲料〈ビアリー〉だ。酒類の飲み方の多様性を提案する「スマートドリンキング」の考えで開発したもので、ビールを製造後にアルコールを抜くという製法により、「よりビールらしさを残したビールテイスト飲料を実現」したという。

 同社では「2025年までにアル分3.5%以下の商品構成比20%を目指す」としており、このスマートドリンキングを推進していく方針だ。

 今年はメインの施策は家庭用に集中しているが、既存ブランド、新ブランドを通じ、新たなビールの魅力を訴求し、業務用も含めたビール市場全体の活性化を狙う意向だ。

■サントリー、〈プレモル〉は「神泡」による飲用時品質訴求

 サントリービールは2021年、業務用で、ビール固有の価値と位置付ける「泡」にフォーカスした「神泡」プロモーション活動に注力する。

 コロナ禍で消費者が飲食店を利用する頻度や来店時の滞在時間が減っている中、飲食店で飲むビールが「これまで以上にかけがえのない一杯になる」(サントリービール・西田英一郎社長)との考えから、引き続き飲用時品質の強化、向上に取り組む考えだ。

 〈ザ・プレミアム・モルツ〉導入店における「神泡」品質提供店の割合は85%(樽生アドバイザー定期訪問店ベース)まで上昇しており、「『神泡』による圧倒的な飲用時品質」(西田社長)の提供によって飲食店における利用客の満足度向上などに寄与していく構えだ。

 また、ノンアルコールビールテイスト飲料〈オールフリー樽詰〉(10L樽)の販売を強化する。食事業態やゴルフ場レストランなどで導入が進み、20年末の取扱店数は対前年215%の2623店に増加。今後もノンアルコールならではの接点拡大などに取り組む意向だ。

 21年のサントリービール販売計画(オールフリーブランド含む)は、前年比で101%。コロナ禍の影響で20年実績が対前年55%と厳しかった業務用(瓶+樽)の21年販売は、対前年98%を計画する。

●サントリースピリッツはハイボール品質や〈翠〉提案に注力

 ウイスキーやレモンサワーなどを取り扱うサントリースピリッツは21年、〈角瓶〉において、料飲店での高品質なハイボール提供を提案する「頂店ハイボール」活動の継続による飲用時品質向上の取り組みを強化する方針。

 また、昨年発売したジャパニーズジン〈翠(すい)〉は、居酒屋など料飲店向けの提案活動に引き続き力を入れる。

〈翠〉(700ml・アルコール度数40%)の炭酸割り〈翠ジンソーダ〉を、「居酒屋メシ」と相性の良い飲み方として提案していく方針。

 〈翠〉の取扱料飲店は20年末時点で2万4000店と想定を上回るペースで導入が進み、20年の〈翠〉販売実績は計画比316%の9万ケース(8.4L換算)に達した。

 今年は「この勢いをさらに加速させる」(サントリースピリッツ・神田秀樹社長)として、ハイボールやレモンサワー(「こだわり酒場のレモンサワー」)に続く「第3のソーダ割り」カテゴリーへの育成を目指す。

 21年は〈翠〉で、20年比211%の20万ケース(同)の販売計画を掲げ、業務用と家庭用が一体となった提案活動によって一層の需要拡大を目指す。サントリースピリッツの21年売上計画は、対前年110%としている。

■サッポロは「ビールのプレミアム化」徹底へ

 サッポロビールは、業務用市場のビールは下期に若干回復すると予測。「圧倒的なプレミアム価値」では、各ビールブランドの個性強化と価値向上により、「ビールのプレミアム化」を徹底する。

 また、〈ヱビス〉ブランドをリニューアルし、「Color Your Time! ビールの楽しさ、もっと多彩に。」を新キャッチコピーに据えた。

 飲食店では複数の樽生〈ヱビス〉を飲めるプロモーションを展開し、顧客との複数の接点を創生していきたいとする。

 〈黒ラベル〉は昨年に引き続き、泡の再生力・持ちをアップさせクリーミーな泡が持続する「パーフェクトチェンジャー」のサーバー装着や、口部厚さ1.2mmの薄づくりグラスによる提供、期間限定のリアル体験イベントなどで、1杯の価値を創出する。

 〈ラガービール〉〈クラシック〉〈SORACHI 1984〉などのブランドもさらなる成長を目指す。

 RTD・RTS市場では〈男梅サワーの素〉を3月16日に家庭用・業務用全業態で発売するとともに、家庭用商品として販売中の〈濃いめのレモンサワーの素 びん500ml〉が好調に推移していることを受け、3月2日から業務用として〈濃いめのレモンサワーの素 ペット1.8L〉を販売。業務用と家庭用を連動させた「居酒屋気分」を提案する。

 〈濃いめのレモンサワーの素 ペット1.8L〉のアルコール分は25%。レモン漬け込み酒を一部使用し、レモンの香りや酸味、厚みをアップさせた。参考小売価格は税別1650円。 

また、昨年リリースした業務用樽の〈99.99(フォーナイン)〉も、家庭用との相乗効果による提案を継続していく。

 髙島英也社長は、「昨年はコロナ禍にあっても、顧客接点の増強や既存ブランドの磨き込みなどについて活動の軸はぶれなかったと考える」と述べた。また、「外食市場においては新型コロナ禍により大きなマイナスインパクトとなったなかで、〈ラガービール〉は大健闘した」と続けた。