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【緊急提言】飲食労務のスペシャリストが警鐘

2020年4月9日 11:42 am

労務戦略における3つのポイント

再雇用を条件とした
「退職勧奨」も選択肢

 キャシュフローが厳しい会社のもう一つの選択肢が「退職勧奨」だ。これは今まで作ってきた信頼関係を活かし、個別に状況を話して、一旦、辞めてもらうという選択肢だ。「退職勧奨」は従業員がこれに合意して退職するに至った場合でも、雇用保険上の離職理由は「会社都合」となるが、自己都合退職の失業給付金の給付日数が「90~150日」であるのに対し、会社都合退職の場合は「解雇」と同等に「90~330日」と長い
 失業保険は、退職前の直近6カ月間の平均給与の80%~50%(平均60%が目安)程度が翌月から貰える。しかも、休業補償の場合は課税されるが、失業保険は非課税だ。

 例えば30代独身で通勤手当などを含む総支給額が月額22万円余の場合だと、手取りは約18万円。これが休業補償60%となると手取りは10万円弱までダウンしてしまう。しかし、失業保険だと14万円強となる。つまり、4万円弱の補填があれば、それまでの手取りと同じになる。しかし、休業補償60%をある期間もらった後に「退職勧奨」または、仮に会社が飛んで「解雇」となったら、その平均給与のさらに80%~50%となってしまうため、本人の失業保険支給額はかなり減少してしまう。そこまで考えてはじめて、「従業員の生活を守る」ということになる。

 仮にコロナが収まるのを3カ月後と仮定して、3カ月後に復帰する前提で「退職勧奨」で一旦、退職して貰うとなると、12万円程度を支度金として渡せば3カ月間の手取り額は変わらない計算になる。これもれっきとした、合法的な選択肢の一つ。何も後ろめたいことはない。

 さらには、2020年4月7日に発表された生活に困っている世帯や個人への支援】の世帯30万円の給付金の対象となると考えられる。黒部さんがその理由をこう説明する。

 「というのも、失業により、年収が250万円(おおよその住民税非課税水準。市区町村により異なる)以下になるケースが飲食業の賃金水準においては大半であるので、活用の可能性が高まると考えられるからだ」

 一旦、社員でなくなった間も、ボランティアという名目で関係を繋いでおく工夫をするのも賢明だろう。見返りはどうにでもできる。要は、コロナ明けにチームがきちんと機能することが重要だ。繰り返すが、法的には義務のない休業補償をするにしても、経営者として、キチンとコロナに対するビジョンを示した上で払うことが要となる。

 いずれにしても、現在のキャッシュフロー、今後の状況を見据えた上で、長期的な戦略を立てて、店を閉める、集約営業する、休業補償する、退職勧奨するといった選択肢の中から、組み立て、会社と雇用を守っていくという考え方の方が健全だ。

 何度も言うが、この前代未聞のコロナ禍にあって、誰も正解など見いだすことはできない。しかし、明確なのは、会社が存続してはじめて雇用を守れるということだ。黒部さんが最後にこう言う。

 「日本ではタブー視されているレイオフ(一時解雇)にしても、欧米では一般的な手法。未曾有の状況下だからこそ、会社が雇用を生み出しているという原点を見失ってはいけない。このコロナ禍は、これまでの考え方の延長線上では乗り越えられない。『助成金が下りたら……』『もう少し融資額が多ければ……』といった『たられば』の経営になったら終わりだ。潤沢にキャッシュがあれば選択する必要もないが、多くの飲食店は借り入れをしたとはいえ潤沢にキャッシュがあるわけではない。自社の状況に合った形を、総合的な選択肢の中で判断していく必要がある」