会社を守らなければ雇用も守れない
総合的選択肢で長期戦のビジョンを
4月7日、政府から緊急事態宣言が発令されたことで、全国の7都府県(東京・神奈川・埼玉・千葉・大阪・兵庫・福岡)を中心に、約1カ月間におよび、さらなる外出自粛が強まり、特に夜間に営業する飲食店は壊滅的な打撃が続く。この危機的な状況の下、会社を存続させ、従業員の生活を守るために、どのような選択肢が残されているのか。労務のスペシャリスト、リーガル・リテラシー代表の黒部得善さんが緊急提言する。
●くろべ・とくよし● 1974年8月生まれ。明治学院大学法学部卒業。97年社会保険労務士取得。社会保険労務士 大野 実氏(現全国社会保険労務士連合会会長)に師事。2002年にリーガル・リテラシー設立。著書に「お店のバイトはなぜ1週間で辞めるのか(共著)」「就業規則がお店を滅ぼす」(共に日経BP社)がある。
NOワーク・NOペイで
休業補償は義務なし
まず、開口一番、黒部さんは「『緊急事態宣言』が出る以前から、すでに異常事態。今回のコロナ騒動は、明らかに経営者の判断ミスによる災害ではなく天災事変。前例がない中、既存の法律解釈のみで、今までのやり方で判断すべきではない。だから、経営者が招いた災害ではないということは、『ノーワーク・ノーペイ(労働者が労働しなかった場合、企業には賃金の支払い義務が発生しないという概念)』の原則に基づき、そもそも休業補償する必要はない案件だ。最低でも賃金の60%を保障する義務があるという前提で考えること、そのものがおかしかった」と強調する。
これは労働基準法上、「災害による休業→事業主の責任ではない→休業中の賃金を支払う義務がない」という意味で、仮に最低ラインの60%を補償するにしても、今回の事案は、「あくまで道徳上の善意により、事業者が休業補償をしていた。労働基準法上の休業手当の支払い義務によるものではない。という前提で考える必要がある」と黒部さんは説明する。
今回、緊急事態宣言が出た7都府県に関しては、労務上、「休業補償する義務」がないと判断しやすくなったと考える人も多いだろう。しかし、緊急事態宣言自体、今までと変わらず、自粛要請を繰り返すということに変わりはない。コロナ禍は、今までも、これからも「事業主の責めに帰すべき事由」ではないのだ。
なぜ、その点を強調するかというと、よほどキャッシュフローが良好でない限り、従業員の休業補償を前提に旧態依然の考え方で経営をしていたら、キャッシュフローの少ない企業は存続が難しくなるからだ。
もちろん、雇用調整助成金の拡充などがあり、休業補償として給与を支払っても、最大で9割(上限あり)は助成される。しかし、それがいつ入金されるかの保証はない。通常の助成金は半年後に振り込まれるケースだって珍しくない。今回は緊急事態ということで急がせたとしても、「助成金を資金繰りの当てにすることは極めて危険だ」と黒部さんは警鐘を鳴らす。
あくまで、「助成金」であり、下りるまでは事業者が一時的に立て替えなければならないことに変わりはない。その立て替え期間は不明だ。
つまり、勝手に「3カ月先に助成金が下りる」という前提で休業や資金繰りをしていると、コロナの影響が長期化した場合にキャッシュアウトしてしまい、助成金が下りたときには会社がないといった事態が現実化しかねないのだ。
変化が激しい時期だからこそ、少なくとも1週間単位で状況判断し、労務の制度をつくりアナウンスしていく必要に迫られている。黒部さんが言う。
「休業するにしても、あとで助成金が貰えるから閉めようという『助成金ありき』の考えは非常に危険。店をどうしていくのかというメッセージありきの施策でないと長期戦には耐えられない。長期戦を前提としたビジョンをどう描くかが重要になってくる」
その時に「雇用調整助成金だけの選択肢」に対する危険性を黒部さんは説いているわけで、休業補償をするにしても、経営者がどの程度の期間の戦いを想定し、資金計画を描いているのか、が問われる。
例えば、長期戦を見据え、手元の資金との兼ね合いで休業補償を60%にするのと、「最低60%だから60%払っておけばいい」という考えでは、資金繰りに大きな差が出てくる。「そもそも『払わなくてもいい』が払っている」という、決めごととして捉えて欲しいと、黒部さんは強調する。