酒類ピックアップ酒・ドリンク開発秘話あんなドリンク読むと得する

自然との共生――「里山」思想から誕生  養命酒のノウハウを活かした渾身の「ジン」とは?

2019年7月1日 1:57 pm

 昭和47年(1972年)に開設された長野県の「養命酒製造 駒ヶ根工場」は、当時、①自然との調和・共生②森林・公園工場としての見学工場、といった2つの考えで作られた。「自然の恵みを頂戴して事業をしている」という、感謝の気持ちがその根底にあると、鳥羽定良副工場長は説明する。

この駒ヶ根という地域は、中央アルプスという日本最大級の花崗岩山脈をくぐり抜けた「硬度が低く甘みがあり、抵抗なく体に染み込む良質な水」が得られることから、日本酒やウイスキー、豆腐、もやしといった食品関係の工場が集まっているエリアでもある。

養命酒製造では、そうした自然環境に極力インパクトを与えないように、山の斜面を利用して階段状に工場を建設。一番上に原料を仕込み、一番下から出荷する。敷地36万平米の70%を森林として残すなど、できるだけ森を切り開かず、かつ階段状に施設を設置することでできるだけ動力を使わずに製造する「グラビティ・フロー(重力活用式)」の考え方を導入している。

自然との共生を重視し、斜面を活用した「グラビティ・フロー」の考え方で作られた工場

この「グラビティ・フロー」の考え方は、近年、ワイン醸造で取り入れられている考え方で、ポンプではなく重力で液体を移動させることで、「環境にも、そして、酒にも優しい」というものだ。それを40年以上も前に導入しているというのだから、驚き以外の何ものでもない。「自然との共生」というスローガンを忠実に実践していると言えよう。

しかも、当時、工場内をオープンに見せるという考え方は珍しかった。見学者はモノづくりの現場を生でみることができ、働く者は常に見られている緊張感があるなど、メリットは大きかった。「見せる工場」の先駆けと言えるのがこの駒ヶ根工場なのだ。

自然との共生という
「里山」の考え酒にも

開設当初の2つの考え方は今も踏襲されており、森づくりはさらなる進化を遂げている。それまでは森そのものを放置することで「森を守る」との考えだったが、陰鬱な針葉樹の森に松枯れ病が近づいてきたことから、「森を管理する」考え方に変更した。

それは、森の中まで光を入れて、この地に生える木を自然に育成する環境を作るため、間伐を行うことだった。つまり、「人と森との共生」を目指す「里山」の考え方に行き着いたのだという。

そうした「里山」の考え方は、酒類の製造にも浸透している。〈養命酒〉の要ともいえるハーブや植物の持つ機能を「香りを含めて、まんべんなく、できるだけそのまま引き出す」というのが同社の考え方だ。

例えば〈養命酒〉は、信州産のもち米を100%使用したみりんと地下150mから汲み上げた「養命水」をベースに造るが、みりんにウショウ(巡らせる)とケイヒ(温める)をメインに14種類のハーブや植物を漬け込む合醸法(ごうじょうほう)という仕込み方で、「生薬の新たな作用」を生み出しているという。

〈養命酒〉の造りの発想は、かつて正月に飲まれていた屠蘇(とそ)と全く同じであったのだ。生薬といっても、人参やウコンなど、身近にある植物の中で漢方的な効能のあるものを長野県の農家の協力を得て試験栽培している。

養命酒造り400年で培った生薬の扱いノウハウをジン造りに活かした

長年、ハーブをはじめとする植物と向き合い、自然と向き合ってきた養命酒製造が、そのノウハウを活かし、満を持して、2019年3月から発売したのがジャパニーズジン〈香の森(かのもり)〉〈香の雫(かのしずく)〉アルコール分47%・700ml瓶だ。ジンの「香りの部分を楽しんでもらいたい」とのコンセプトで造られた同社のジンは、ともに長野の山に自生するクロモジ(黒文字)をメインとする香り高きジンである。

 

クロモジの枝をメインに、レモンピール、ジュニパーベリー、トチュウ葉、クロモジ葉、桑の実、杉の葉、カショウ、ショウガ、リコリス、セージ、カルダモン、ローズマリー、ローレル、オレンジピール、クコの実、松の葉など、実に19のボタニカルから成る。その原料もさることながら製造工程にも数々のこだわりがあった。

ジン製造場にはドイツ・アーノルド・ホルスタイン社製のポットスチルと連続式蒸留器(6段)があった。取材に訪れたとき、ポットスチル内にはピュアアルコールを80℃で熱し、バスケットに入ったクロモジをアルコールの熱で蒸して香り成分を抽出している最中だった。数時間かけてさまざまな香り成分を抽出する中で、クロモジらしい香りを引き出していくという。これを冷却塔に移すと高アルコールのクロモジのベースジンができあがる。

ジン製造場にはドイツ・アーノルド・ホルスタイン社製のポットスチルと連続式蒸留器(6段)がある

続いてはもう1つのベースジン造り。クロモジをはじめ、杉、ローレル、ローズマリー、松、クコ、といった葉系のものだけ前日から24時間かけて50%を超えるアルコールに浸漬しておく。フレッシュな香りを抽出するために、ポットスチル内のバスケットにレモンピールやジュニパーベリーなど19種類のボタニカルを入れ、浸漬しておいたアルコールベースに熱をかけて蒸す。それを冷却してできたもう一つのベースジンをクロモジのベージンとブレンドすることで〈香の森〉は完成する。

〈香の森〉の最大の特徴であるクロモジは、日本に自生するクスノキ科の落葉低木。樹皮にある黒い斑点を文字に見立てたことからクロモジ(黒文字)と名付けられた。枝葉に強い香りがあるため山地の人々や登山愛好家に親しまれてきた樹木。和菓子につけられる高級爪楊枝としても我々の生活に実は深く関わっている樹木なのだ。

バスケットに入ったクロモジをアルコールの熱で蒸して香り成分を抽出している最中

クロモジの生薬名は「ウショウ」と言い、〈薬用養命酒〉の14生薬の1つであり、生薬原料として一番多く使用されている。抗ウィルス、アンチエイジングといった〈薬用養命酒〉の象徴的な機能に加え、香りにはリラックス効果もあるという。

太い枝は直接ポットスチルに、細い枝はバスケットで蒸し、葉は浸漬するといった部位ごとに分けた最適な抽出を行うことで、「クリーンでフレッシュな香りを生んでいる」のだという。

敷地内に自生するクロモジの木

使用する素材の分析を確実に行い、香りをカットするタイミングもデータを取って定量化するなど、できるだけブレをなくし、最大限の抽出を目指す点は、まさに養命酒造りで長年同社が培った技術が、このジン造りにも脈々と活かされているといっても過言ではない。


養命酒の創製から400年超。その老舗企業が、4世紀超のノウハウを惜しみなく投入し、日本に原生するクロモジで造った、まさにジャパニーズ・ジン。その香り、味は唯一無二だ。

https://www.yomeishu.co.jp/herb_liqueur/gin/