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サントリーが掲げた「神泡」とは何ぞや? なぜそれほどまでにビールの泡にこだわるのか
樽生は飲食店で完成する半製品 おいしいビールには「原則」あり
実は〈ザ・プレミアム・モルツ〉は商品設計の段階から「『おいしい泡』を飲んでもらいたいとの思いで造られた商品」なのだという。だからサントリーは、「飲用時品質」に強くこだわる。そして、その「飲用時品質」こそが、飲食店の差別化にも繋がるとサントリーは考えている。「おいしい泡」への飽くなきこだわりは、飲食店の繁盛に繋がる――それがそもそもの出発点だ。この「おいしい泡」と「飲用時品質」との関係、そして「おいしい泡」と「飲用時品質」とがなぜそこまで重要なのかを、実際に飲み比べることで体験してみた。その模様をリポートする。果たして、サントリーは、なぜそこまで「泡」にこだわるのか――。
「飲用時品質」担う 飲食店の役割重要
サントリーがどんなに「飲用時品質」を大事にしていても、肝心の飲食店が協力してくれなければ、「完全な状態で出す=プレミアムを保つ」ことはできない。そこで同社は、樽生アドバイザーを全国に配置して、おいしい生ビールを提供してもらうために指導している。
その指導のベースとなっているのが下図の「樽生3原則」と「こだわり2ヶ条」だ。おいしい生ビールを提供すれば、自然と杯数が上がり、料理の追加も増える。回り回って店の売上に貢献する。実際にその循環が起きることから、この指導を受けて「プレミアム達人店」や「プレミアム超達人店」になった店は、高い意識で生ビールを管理しサービスするようだ。 サントリーの樽生導入店は全国に8万3000店(2017年末)、そのうち樽生アドバイザーがカバーしているのが5万5000店。そのカバー店の約2割に当たる約1万3000店が「プレミアム達人店」「プレミアム超達人店」と呼ばれる飲食店だ。「樽生3原則」と「こだわり2ヶ条」をしっかり守れる店が「プレミアム達人店」になれる。
「プレミアム超達人店」はさらにハードルが高く、週1回のスポンジ洗浄が毎日になり、ディスペンス・ヘッド、ビール・タップの分解洗浄を週に1回行い、さらに「プレミアム達人店」ならば営業前に調整するガス圧を、1時間に1回、樽の温度変化に応じて微調整することが義務付けられる。この日々のかなり厳しい管理基準をクリアできている店は全国に1100店しかない(17年末)。 実はそれだけではない。
「プレミアム達人店」と「プレミアム超達人店」とでは、注ぎ方も違う。 まずは「プレミアム達人店」。タップに対し斜め45度にグラスを傾け、余計な泡を立てないように渦巻き状にビールをグラスに注ぐ。グラスに書かれた「The」と「PREMIUM」の文字の間あたりまでビールを入れる。ここが約7割の場所。そこまで注いでからタップに近づけてグラスを立て、一気に泡を入れる。ここでグラスをタップから離すと泡の肌目が粗くなるので、近づけることが重要だ。
そして「プレミアム超達人店」の場合。タップに対し斜め45度にグラスを傾け、余計な泡を立てないように渦巻き状にビールをグラスに注ぐところまでは同じだが、注ぎ始めた最初の1秒くらいはグラスに入れずに、受け皿にビールを流してしまうのだ。 これはタップ内に残った温まったビールを出す作業。ぬるいビールがグラスに入ってしまうと余計に泡立ってしまう。
さらにグラスの縁に沿わせて、よりビールにストレスをかけないように注ぐのが「プレミアム超達人店」。そして、泡を入れるときも、粗い泡を一旦、溢れさせ、専用のスクレイパーで余分な泡をカットする。そうすることでキメの細かいプルンと光った泡になる。「プレミアム超達人店」ともなると、専用のスクレイパーのほかに専用のフキンも用意されている。 「本当においしいものを出すためにはひと手間を惜しまないことが大切。専用の道具を用意しているのも、そうした意識を高めるためだ」と、ドラフトマスターの大野浩さんは説明する。 講習を受け、なりたいかどうかの意思を確認した上で、営業中に覆面調査を実施して合格すれば「プレミアム達人店」となる。
さらに「プレミアム超達人店」の場合は、上記のように更に厳しい基準があり、加えて注ぐスタッフ全員から宣誓書をもらった上で認定書を発行する。もちろん、認定されて終わりではない。樽生アドバイザーが3カ月に一度チェックをし、品質劣化が認められ、それが改善されない場合には、年に一度の更新で認定取り消しになるケースもあるという。
ビールをおいしく 「神泡」4つの役割
今年から、より「提供時品質」へのこだわりを強めるサントリーは、これまで提唱してきた「クリーミーな泡」の重要性をさらに強調し、「神泡(かみあわ)」と呼ぶことにした。 「樽生3原則」と「こだわり2ヶ条」を守って注がれたビールに発生するクリーミーな泡が、グラスに残っている間は、飲みながら泡が復活してくるから不思議だ。クリーミーな泡がビールの中の炭酸ガスに反応して、またクリーミーな泡を生む循環が起こり始め、飲み終わった後にグラスにはエンジェルリングが出る。クリーミーな泡がグラスにある限り、何度でもクリーミーな泡が復活する。素晴らしい状態で最後まで飲むことができるために必要な泡だからこそ、「神泡」と呼ばれるようになったわけだ。
クリーミーな「神泡」には四つの重要な役割がある。その役割が生きているからこそ、泡は絶えずグラスの中で生まれ続けるのだという。その四つの役割とは別図のとおりで、①クリーミーな泡ほど口当たりが良くなる②味・香りを逃がさないフタの役割③ビール中の炭酸ガスを逃がさないフタの役割④酸化を防ぐ。ビールは酸化すると色が濃くなり、苦くなる。宴会などで置き去りにされて泡が消えた状態のビールがそれで、確かに色が濃く、飲むと苦みが強いため、スイスイとは入っていかない。 注ぎ方一つで、この泡の性質もビールの味も大きく変わってしまう。
サントリーのこだわりの注ぎ方でのビールと、グラスを立てた状態で注いだビールとを比べてみた。 まずはサントリー方式のビールにマドラーを入れてかき混ぜると、(液にストレスをかけないように注いでいるため)炭酸ガスの含有が多いので溢れ出てしまう。
一方、グラスを立てて注いだビールは混ぜても泡立つだけで溢れ出ない。これは注ぐ時にすでにガスが抜けてしまっているためだ。飲んでみるとホップが際立ち、苦くて飲みづらかった。飲み比べると非常によくわかるが、同じホップの量、同じビールであることが信じられないくらい、味が異なるということだ。 この注ぎ方の比較実験を経ての結論は、ビールディスペンサーの役割は、飲食店にとって非常に重要だということ。瓶や缶と差別化するための最大の道具といえる。「飲食店で飲む生はうまい」と思ってもらえるかどうかは、注ぎ方一つで大きく変わってしまうのだ。
グラスによってもビールの表情は大きく変わる。布で拭いたグラス、油がついた他の食器と一緒に食洗機で洗ったグラスを用意して、通常のグラスに注いだものと比較した。食洗機で洗ったグラスは、グラスに残った微量の油のせいで気泡がたくさんつき、一瞬でカニ泡になってしまった。布で拭いた方は、底にたまった繊維から炭酸がどんどん抜けていく(右写真参照)。ドラフトマスターの大野さんが言う。
「グラスの表情はお店の表情。品質へのこだわりはグラスの状態ですぐにわかる。毎日スポンジ洗浄をして、ガス圧を適宜調整してきちんと注いでも、グラスが汚かったらすべての努力が台無しになってしまう」 それほどグラスの状態も重要なのだ。中性洗剤による手洗いで自然乾燥が理想で、「プレミアム超達人店」は専用スポンジで底までしっかり洗うのだという。こうして比較試飲してみると、「樽生3原則」と「こだわり2ヶ条」のどれが欠けても、おいしい生ビールは提供できないということがよくわかる。
そして、造り手のこだわりを具現化するためには、飲食店が一番重要な役割を担っているということ。大野さんの言葉を借りれば、「樽生は半製品で、『樽生3原則』と『こだわり2ヶ条』により初めて完成する」もので、それは飲食店のこだわりと情熱でしか成し得ない。工場で造られた「製品」が酒販店で「商品」となり、飲食店で「作品」となってお客さんに提供される。 醸造家の造った状態を再現する最高作品の提供こそがサントリーの目指す「神泡」の提供で、それこそが「お店の繁盛に繋がる」というわけだ。この「神泡」は飲食店でしか体感できない。それこそが生ビールの持つ最大の価値なのだろう。サントリーがかたくなに泡にこだわるわけは、実はそこにあった。
日本外食新聞2018年3月15日号掲載