宮城・気仙沼で酪農を営む小野寺ファーム(宮城・気仙沼、小野寺佑友代表)は、「牛の健康を重視した、持続可能な畜産」を目指し、良い環境で育てた規格外品の牛肉を提供するブランド「幸せな牛の時代」(https://onoderafarm.mystrikingly.com/)をスタートした。
日本で飼育されている肉牛の多くは、柔らかな霜降りにするため運動を制限されており、出荷前の一定期間は「ビタミンA不足」の状態で育てられる。その結果、体中の関節が大きく腫れ、目が見えなくなっている牛を目の当たりにした小野寺佑友さんは、「そうまでしてサシをいれたお肉は、果たして『おいしいお肉』といえるのでしょうか」と疑問を抱いた。
そして「私たちは肉の流通基準に合わせた『高く売るための肥育』に疑問を感じ、その逆を目指そうと思いました。つまり、命をいただく瞬間まで健康に生きてもらう。そうして『幸せに健康に生きたお肉こそがおいしいお肉』だと証明していきたい」との想いから新たな取り組みに着手した。
2019年、乳牛として飼育しているブラウンスイスに黒毛和牛の種を付けて得た雄牛を、「健康に育てた牛はきっとおいしい。そうであって欲しい」という信念のもと、自由に遊ばせて牧草を食べさせ、冬は牛舎に入れて自家栽培した穀物や配合飼料を与えた。急がずに30カ月かけて飼育した「きたろう」は人なつっこく、非常にかわいい顔で、地元の子どもたちにも人気だったという。
小野寺さんは、「屠畜直後は『本当にこれで良かったのか?』という自責の念ですべての動物の肉が食べられなくなった時期もありましたが、やがて『食べてこそ報われるんだ』と思い直しました。そして関わった皆で食べた『きたろう』のお肉は弾力がありつつ柔らかく強いうま味がありました。悲しいけれど嬉しいその味を私は忘れません」と当時を振り返る。
交雑種でA1~A5などの現在の価値基準に合わない「規格外」の肉には価値がつかない。小野寺さんは「アニマルウェルフェアとは『動物福祉』の意味で、最近になって日本でも使われるよようになった。酪農家で生まれ育った自分にとって牛は家族や兄弟、仲間のようなもので、そもそも牛の健康は絶対でした。そのような価値と実際のお肉のおいしさを知る人が増える時代を自分たちの手で作っていきたい」として、直接、専用サイトを通じて販売することとした。現在、「30カ月飼育したミックスの雄牛きたろう」と「60カ月飼育したブラウンスイスの未経産牛」をブロックの形で販売しており、飲食店や精肉業者の賛同者を募っていく考えだ。