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食品メーカーがレストラン併設施設運営を通じて得たこれだけの気づき 【キユーピー】

2022年10月21日 12:23 pm

 食品メーカーであるキユーピーが、飲食店やショップ、体験農園を併設した複合施設「深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム」を開発・運営するというチャレンジングな試みから約4カ月経ち、いくつかの効果と課題が明らかになってきた。

 「深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム」は、2012年に実施した新規事業の社内公募で採択されたもので、「野菜の魅力を知ってもらい、もっと食べてほしい」をコンセプトにした企画だった。その後、コンセプトを具現化するための敷地探しなどで難航し、本格的な始動までに4年を要した。また、施設名については先入観をもたれないよう、キユーピーの名を冠しないことに決めた。

 

 運営は同事業のために設立した深谷ベジタブルコミュニケーションが担い、1万7600㎡の敷地に、体験農園6000㎡を含む農地1万4000㎡と900㎡の商業施設、138台分の駐車場を設けた。商業施設は平屋建てでレストランホールが300㎡、厨房が115㎡、マルシェが200㎡となっている。レストランは、最大で130席程度にできるがコロナ下ということもあり86席に減らしてスタート。その後24席増やし9月時点では110席で運営している。

■開放感のあるレストラン

 また、キッチンについてもスタッフからの要望を受けて、入り口や座席、イベントや各種教室で使う個室からも見えるようにした。これにより、お客さんから直接シェフに声をかけられ感想を伝えられたり、時間のある時は調理法を教えたりという交流も生まれているという。

■レストラン入り口から見たキッチン

 キユーピーの髙宮満社長は9月、「このような施設を運営するのは初めてのことなので、大きな実験場として色々と試しながら奮闘しているところです。農園をかかえていることから天候などにも大きく左右され、想定外のことばかりが起きている。ショッピングモールが開業すれば、さらに状況が大きく変化するだろうが、成長する姿を見守ってほしい」と語った。

キユーピー・髙宮満社長(右)と深谷ベジタブルコミュニケーション・海老沢智幸社長

 その大型ショッピングモール「ふかや花園プレミアム・アウトレット」が10月20日、隣接地に開業した。同社ではこれまでの来場者は地元住民が多かったが、ショッピングモール開業後は遠方からの利用者が大部分を占め、客層が大きく変わると想定。10月20日までに改善点を洗い出し、ブラッシュアップすることに取り組んできた。それでは、開業から4カ月経った9月までに、どのような取り組みを進めてきたかを見てみる。

 同社初となる直営レストランのメニューは、地産地消を提唱するフレンチレストラン「シテ オーベルジュ」などを運営するオトワグループ代表の音羽和紀シェフと、ミシュランガイドで一ツ星を獲得した「シエル エ ソル」の料理長などを務めた音羽創シェフが監修。グランドメニューを用意せず、その時々に収穫できた野菜を見てからオトワ・クリエーションから出向している料理長を中心に料理を仕上げ、2人の音羽シェフに確認する形で進めている。音羽和紀シェフはオープン時の記者会見で「野菜は部位によって安易に捨てられることが多い。素材をすべて活かし切り、こういう風に活用できるということを示したい」と想いを語った。

オトワグループ代表の音羽和紀シェフ

 これまでは、開業したばかりでスタッフも慣れていないことからランチのみの営業としていたが、それでも料理を提供するまでに時間がかかってしまい、お客さんを待たせたり並ばせたりしてしまう結果になった。現在ではスムーズに対応できるようになってきたものの、空席もチラホラと目立ち始めたという。

 ホールの接客については、JR東日本から「グランクラス (Gran Class) 」などを歴任してきた接客担当者が出向して、目くばせや気配りなどサービス面を指導。徐々にスタッフにも浸透し、動きが良くなってきているという。

 メニューについては、その日に入荷した野菜を見て組み立てる〈シェフズサラダ〉2050円やカレー、パスタ、デザートなど約10種を用意し、750~2500円程度で提供している。

 この4カ月で料理面での見直しも進めた。オープン時に提供していた料理は好評だったもののオペレーションが重くなってしまった。そこで、クオリティを維持しながらもオペレーションを軽くできるようにメニューを見直し、提供時間の短縮を実現。ただ、冷製パスタから温パスタに切り替えるタイミングがズレてしまうなど、経験不足による取りこぼしも発生。状況に応じてメニューをすぐに切り替えられる対応力を養うことが今後の課題だという。

■オープン時の〈シェフズサラダ(パン、スープ付き)〉

■9月の〈シェフズサラダ〉

 また、オープン時は〈デコポンのフルーツタルト〉といった旬の果物をメインにしたタルトをデザートとして提供していた。これをミックスフルーツを乗せた〈季節のタルト〉に変更することで、仕入れた食材に対して柔軟に対応できるようになり、獲れたての野菜や果物を販売しているマルシェとの連携も高められるといった効果も表れた。

 ピーク時にはホール6人、キッチン5人で回し、これまで改良を重ねながらも力がついてきたことから、ショッピングモールの開業に合わせて10月21日からは座席数をさらに増やすとともに、月・金・土・日・祝に予約制のディナーも開始。5000円と8000円の2つのコースを用意し、内容は「シェフのおまかせ」となる。子供連れでも利用でき、キッズメニューも用意する予定だ。

■ディナーコースで提供するメニューの一例

〈深谷牛のロティ 大場のチミチュリソース〉

〈天使海老のガダイフ包み 深谷ネギのカルソッツを添えて〉

 また、新たに整備された公園に面したショップでは、生産者が自ら持ってくる獲れたての野菜や果物、ドレッシング、焼き菓子などに加えて、季節の果物や野菜を使ったソフトクリームも販売しており、こちらも人気となっている。ただ、毎日入荷される野菜について、「地元のお客さんと遠方から来たお客さんとで異なる提案をしないとうまくいかない。まだまだ勉強不足、提案不足でそれぞれの野菜の魅力を十分に伝えきれていない」(担当者)として、日々改善に取り組んでいる。

 これまでのところ、生産者が野菜を納品して、そのまま店舗に立って説明する時には、その野菜はほぼ完売し、量販店ではあまり見かけない商品の売れ行きもいいという。当初はキユーピー色を極力ださないようにしていたものの、来場者はキユーピーのイメージを持って来ていることがわかり、ドレッシングなど同社製品やグッズなども販売。今後の相乗効果を期待する。

■獲れたての野菜を販売するショップ

 このほか、体験農園では当初、1500~2000円前後で2、3種の野菜を収穫しながら野菜の魅力を学ぶ予約制のガイドツアーを実施していたが、より気軽に楽しめるようにと予約不要で500円で収穫体験できるサービスに変更した。

■収穫できる野菜のオススメの食べ方も提案する体験農園

 深谷ベジタブルコミュニケーションの海老沢智幸社長は「これまでのところ、業績的には厳しい面もあった。10月20日のアウトレットモールまではスモールスタートとして席数を抑えた面もあるが、もう少し頑張りたかった。この4カ月で学んだことを糧として、アウトレットモールからの人の波を取り込みたい。それができるかどうかは、我々の魅力次第だ」と意気込みを語った。なお、キユーピーでは独立採算制を導入しており、実験的な取り組みでありながら、早急に単独で利益を出せる体制を構築することを当面の目標に据えている。