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「健康的だけどおいしくない」はもう古い──プラントベース(植物由来)フードはこんなに進化した!!【後編】

2023年5月4日 10:13 am

※ゴールデンウイーク特集として、2023年2月25日号「日本外食新聞」の記事を再掲します。
(記事中の数値などは掲載時のものです)


 

※前編はこちらから
「健康的だけどおいしくない」はもう古い──プラントベース(植物由来)フードはこんなに進化した!!【前編】
https://foodfun.jp/archives/23207

 近年よく耳にする「プラントベースフード(以下、プラントベース)」。動物性原料を使わず、植物由来の食材のみを使用した食品だ。

 「健康的」「地球環境に優しい」といったポジティブなイメージがある一方で、いまだに「禁欲的」「あまりおいしくない」などのネガティブな見方があるのも確か。

 しかし、企業努力により、「ヘルシーでおいしい」プラントベースを提供する飲食店が増え始めた。今回はその事例を2回にわけて紹介する。

■2foods■

ヘルシー&ジャンクで非ヴィーガンにも人気

 東京・渋谷や六本木、銀座など主要な繁華街に5店舗を展開する「2foods(トゥーフーズ)」は、ウェルビーイング事業を展開するTWO(東京・恵比寿、東義和CEO)が手がけるプラントベースブランドだ。

《2foods 銀座ロフト店》外観

 「2foods」は、味覚を刺激するおいしさ「Yummy(ヤミー)」と、食べることで体を整える健やかさ「Healthy」の両方を併せ持つ「ヘルシージャンクフード」をコンセプトにしている。一見すると相反するような単語の組み合わせだが、同店のメニューを実際に食べてみると、これが成立していることに驚く。

 同社が22年10月16日に発売した〈エバーチキンナゲット〉を食したところ、衣はコーンフレークでサクサクしており、動物性食材不使用なのに鶏肉のような食感と味わいが楽しめる。

 また、店舗で購入した場合は〈2foodsジャンクソース〉として、まろやかなチーズ感を楽しめる黄色の〈プラントベースチェダーチーズ〉、ブラックペッパーのパンチがあるアクセントが効いたピンク色の〈黒胡椒ガーリックマヨ風〉、レモンの酸味が感じられるさっぱりした青色の〈レモンタルタル〉と、色鮮やかな3色のソースが付く。

〈エバーチキンナゲット〉に付く〈2foodsジャンクソース〉はとてもプラントベースとは思えない鮮やかな色だ

 一見するとチキンナゲット&カラフルソースでいかにも「ジャンク」だが、ナゲットからソースに至るまで全て植物性食材。1食(5個分・100g)で15g以上のたんぱく質と同時に食物繊維も摂れ、グルテンフリーやコレステロールゼロも実現しているという。

 また、人気メニューの1つ〈生食感の濃厚ガトーショコラ〉は牛乳やバターを使用していないとは思えないほど濃厚だ。玄米粉を使用し、小麦不使用のためグルテンフリー。まさに「ヘルシージャンク」だ。

 さらに、カゴメと共同開発したプラントベースエッグ〈エバーエッグ〉を使ったオムライス〈エバーエッグオムライス〉は卵不使用。〈エバーエッグ〉はにんじんと白いんげん豆を原料に選定し、独自技術「野菜半熟化製法」を用いてふわとろ食感を実現した。もちろんデミグラスソースも豆乳バターなどを使用した動物性食材不使用だ。

卵不使用の〈エバーエッグオムライス〉

 現在の客層の男女比は男性約35%女性約65%で、ベジタリアン・ヴィーガン(VG・V)客は3割で残りの7割は非VG・Vだった。年代は店舗の場所によって多少異なるという。銀座店は幅広い年代が見られ、渋谷店は若年層が多い。

 最近は外国人観光客が増えてきて、日によっては渋谷店や銀座店などは半数が外国人客ということもあるそう。検索サイト「HappyCow」にも登録済で、英語メニューも用意している。

 同社を立ち上げた代表の東義和さんは、かつて15年間ほどPR会社を経営していた。そのうち、さまざまな企業のブランディングやマーケティングを手がける中で培ってきたPRのノウハウを活用したメーカー事業を行いたいと思うようになっていったという。そこで15年に中性重炭酸入浴剤「BARTH」を手がけるTWOを設立した。

TWOの東義和CEO

 「BARTH」ブランドは女性を中心に大ヒットしたが、東さんは「もっと大きなマーケットに挑戦したい」と考え、19年にTWOに専心するためPR会社を離れた。そして植物性食材に将来性を見出し、準備期間を経て21年4月、東京・渋谷と赤坂に「2foods」をオープンした。

固定観念捉われず開発グローバル展開視野に

 おりしも当時はコロナ禍で世界的に健康志向が強くなり、また「エシカル消費(環境保全や社会貢献に配慮した消費)」や「サスティナブル経営(持続可能な経営)」への関心も高まってきた頃だ。

 欧米ではコロナ禍を期にプラントベースへシフトしていく動きが見られたが、日本では「プラントベース=おいしくない」というネガティブな声が根強くあり、消費者の認識はまだ低い。

 「ここをブレイクスルーするのが最も重要だ」と捉えた東さんは、病みつきになるプラントベースを提供すれば、地球環境のために無理をして食べるというよりも食べたい味わいでありつつエシカル消費が可能になるのではないかと考えた。

 そこで新しいことや面白いことを成し遂げたいという思いをミッションやビジョンとして発信し続けた結果、レストランシェフやコンビニのベンダー、化学系の研究職という多彩なメンバーが集まってきた。ちなみに東さんはまったくの飲食未経験。

 いかにヘルシージャンクなプラントベースを作り上げるか、スタッフとともに試行錯誤を続けた。しかし未経験だからこそ固定観念がゼロだったので、それにとらわれずに動けたのが奏功したという。

 東さんは「普通では選ばないだろうなという方向を選んできたのではないか。無謀と言えば無謀だった」と笑う。

 「2foods」をオープンした結果、「ヴィーガンもジャンクフードを食べられるようになったのか」と、ヴィーガンからは大いに喜ばれたという。

「ヘルシージャンク」なプラントベースフードを提供

 「日本ではまだまだプラントベースを知らない人が大半だ。その層へどうリーチしていくかが僕たちの課題だが、ノンヴィーガンの人にも好評だった」と東さんはこう続ける。

 「渋谷はロフトに、六本木はアークヒルズという商業施設にあえて出店したため、フリ客が興味を示して入店するケースが多い。プラントベースにネガティブな意識を持っている人でもフラッと入って食べてそれが覆ったらいいことだし、そもそもプラントベースを知らない人も初めて食べて『プラントベースっておいしい』と思ってくれたら嬉しい」

 商品開発はマーケティングも参加して全員で行うのが同社の強みだ。

 「社員が一丸となって行うことで互いの意思疎通がしやすく、商品開発からブランディング、マーケティングまで一気通貫で行えるので方向性を定めやすい。たとえ味がよくてもすでに世の中にあるようなものであれば、我々の出すべき商品ではないと開発を中止することもある」(東さん)という。

 現在は飲食店向けにプラントベース素材を販売しはじめている。実店舗で使用しているものなので、現実に即したレシピやメニュー提案が可能だ。これにより「2foods」はレストラン事業、工業化製品、素材メーカーの3つの事業領域を包括したブランドに成長した。

 今後はFCや都内以外の主要都市への展開を年内に検討しているという。プラントベースを手がけたい飲食店に対して東さんは、「お客さんを向いた商品作りは飲食店の得意とするところなので、そこを意識的に念頭に置きつつ固定観念を取り払ってみたら良いのではと思う。さまざまな飲食店がプラントベースに参入することで、業界全体の盛り上げにもなるのではないか」と述べた。

 3月1日、同社は「BARTH」ブランドをアース製薬へ事業譲渡する。今後は世界的にプラントベースの重要性が増し市場が拡大していくと予想し、グローバル展開を視野に入れたより大きな食の市場に挑戦するべく、リソースを集中させるためだという。 (宮木恵未)