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「健康的だけどおいしくない」はもう古い──プラントベース(植物由来)フードはこんなに進化した!!【前編】

2023年5月3日 10:11 am

※ゴールデンウイーク特集として、2023年2月25日号「日本外食新聞」の記事を再掲します。
(記事中の数値などは掲載時のものです)


 

 近年よく耳にする「プラントベースフード(以下、プラントベース)」。動物性原料を使わず、植物由来の食材のみを使用した食品だ。

 「健康的」「地球環境に優しい」といったポジティブなイメージがある一方で、いまだに「禁欲的」「あまりおいしくない」などのネガティブな見方があるのも確か。

 しかし、企業努力により、「ヘルシーでおいしい」プラントベースを提供する飲食店が増え始めた。今回はその事例を2回にわけて紹介する。

■ヴィーガンビストロじゃんがら(東京・原宿)■

とんこつラーメン店がなぜヴィーガン商品?

 東京・原宿にある「ヴィーガンビストロじゃんがら」は、2021年3月22日にオープンしたベジタリアン・ヴィーガン向けのビストロレストランだ。

 「じゃんがら」の名前でピンとくる人もいるだろう。都内を中心にラーメン店「九州じゃんがら」を展開している春秋社(東京・大崎、下川高士社長)が運営している。

《ヴィーガンビストロじゃんがら》内観

 「じゃんがら」といえば、とんこつスープが特徴の九州ラーメンだ。1984年に秋葉原へ出店した当時の東京では醤油ラーメンが主流で、一度もとんこつラーメンを食べたことのない人がほとんど。食べ慣れないお客さんの口に合わせ、豚骨の臭みを抑えてマイルドな口当たりにした〈九州じゃんがら〉を提供していた。

 熊本で育った代表の下川高士さんは、創業当初は子供の頃から食べて慣れ親しんできた、濃厚で野性味あるとんこつスープを提供するも、「スープが濃すぎる」とのクレームにより、開店2日で封印した経緯がある。

 しかし下川さんは「やはり本場のとんこつスープを提供したい」と諦めきれず、最初に出したスープの改良を重ね、げんこつ独特の野性的な香りや旨味がある博多系とんこつ〈ぼんしゃん〉を88年に出したところ、今でも人気のロングセラーとなった。

 ちなみにこの名前の由来は、このラーメンを食べたフランス人のお客さんが「トレ・ビアン、セ・ボン! (とってもいい、おいしい!)」と絶賛。「セ・ボン」の「ボン」から〈ぼんしゃん〉と命名したのだとか。

 その後も原宿や銀座、赤坂へ展開していき、現在直営9店舗、他社との提携店を国内2店舗・海外4店舗運営するなど、順調に発展してきた同社が、12年に動物性食材不使用の〈全部野菜の醤油らあめん〉(現在は販売終了)をリリースする。

 なぜとんこつラーメンで成長してきた同社が、植物性メニューを提供するに至ったのか。「ヴィーガンビストロじゃんがら」の副店長を務める安西和生さんは、その理由をこう語る。

 「05年頃、代表の下川が体調を大きく崩した。その時に『食べ物によって健康になろう』と考え、普段の食事にヴィーガン食を取り入れたところ、すぐに健康を取り戻した。それからプラントベースフード(プラントベース)の良さに惹かれ、『じゃんがら』でも提供できないかと考えたのが発端だ」

店長の蛇沼清孝さん(左)と副店長の安西和生さん

 また06年に政府が「観光立国推進基本法」を制定し、12年は外国人旅行客が増え始めた頃。外国人グループが「じゃんがら」に来店しても、ベジタリアンやヴィーガンの人は食べられない。せっかくなら同じ席でおいしいラーメンを食べてほしい──

 そこで「ホールプラント(WHOLE PLANT=すべて植物)」と称し、野菜だけで仕上げたラーメンの商品化に着手したのだ。麺からは卵を除き、スープも動物性食材を一切使用しないラーメンを試行錯誤の末に開発。〈全部野菜の醤油らあめん〉を期間限定で発売した。

 動物性食材不使用にも関わらずコクや旨味がしっかりあり、かつ健康的だと支持された結果、現在は「ホールプラント」シリーズとして〈熊本マー油のヴィーガンらあめん〉や〈濃い口醤油のヴィーガンらあめん〉など4種のヴィーガンラーメンを、通年で提供している。

ヴィーガンのイメージ改善し全国へ広げたい

 20年1月からの新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、営業自粛や時短営業要請が繰り返される中、やむなく原宿の1・2階で営業していた「九州じゃんがら」のうち2階を休業した。

 「せっかくなら2階をヴィーガン専門店にしてみたらどうか。そしてヴィーガンのイメージを変えたい」──下川さんはそう考え、リニューアルすることにした。20年秋のことだ。

 店のコンセプトやメニュー開発においては、TOKYO-T’s(東京・大崎、下川祠左都社長)が運営する自由が丘のヴィーガンレストラン「T’sレストラン」が全面サポートを行った。

 実はTOKYO-T’sの代表である下川祠左都さんは高士さんの妻で、体調を崩した高士さんをヴィーガン食で支えた経緯があり、この分野のエキスパートだ。

 こうして21年3月22日、リニューアルオープンした「ヴィーガンビストロじゃんがら」では、ソイミートの〈ジュージューグリル(醤油味or味噌味)〉1200円や〈餃子〉3個400円・6個750円、〈アヒージョ〉1200円といったヴィーガン料理を、サントリー〈超達人のプレミアムモルツ〉グラス570円・ジョッキ720円や〈超炭酸の角ハイボール〉500円といった酒と一緒に楽しめる。

 当初は「とんこつの『じゃんがら』なのにそっち(菜食主義)に振れたの?」など、ネガティブな反応もあったという。

 しかし副店長の安西さんがインスタグラムに「#Vegan」のハッシュタグを付けて積極的に投稿したところ、外国人から多数のDMが来るようになった。安西さんは「このタグで検索すると膨大な量が出てくる」という。

 試したところ、2月13日時点では1.2億件もの投稿が出てきた。「#ビーガン」だと69.3万件、「#ヴィーガン」でも142.7万件だ。英語圏での普及や関心の高さがうかがえる。

 さらに「ヴィーガン料理なのにおいしくてボリュームもあり満足できる」と味の良さで好評を博し、今では20~30代の女性や外国人客を中心に人気となった。

 とんこつラーメンや肉が大好きな記者も〈ヴィーガンこぼんしゃん〉1150円を食してみたところ、スープのまろやかなコクと旨みが強くソイミートもおいしく、ヴィーガン食と言われなかったら気づかないほどの味と満足感だった。

〈ヴィーガンこぼんしゃん〉

 ちなみにソイミートは愛知・名古屋の食材販売会社「かるなぁ」から取り寄せている。安西さんいわく、メニュー開発を行う中で、ここのソイミートが最もおいしいと感じたという。

 グーグルマップの口コミも同時点で163件あり、星は4.7と高評価を獲得。ベジタリアン・ヴィーガンレストラン検索サイト「HappyCow(ハッピーカウ)」では2年連続で5つ星を獲得するほどの人気ぶりだ。

 ちなみに安西さんは「賄いで店の食事を食べていたら、半年で10㎏やせた」のだとか。まさに「健康的でおいしい」だ。

 そんな安西さんから、プラントベースの提供を検討する飲食店に向けたアドバイスとして
 ①アルコールNGなヴィーガンもいるので、料理酒を使用している場合は大丈夫かお客さんに確認する②動物性食材と一緒に揚げると成分が混ざるため、フライヤーを分ける③調理器具も別にする④アレルギー表記をメニューに書いておく──を実行するといいという。

 「下川も自分たちもこの店でプラントベースのイメージを良くしていき、ゆくゆくは全国に広げていきたいと考えている」と意気込む。

※以下に続きます※
「健康的だけどおいしくない」はもう古い──プラントベース(植物由来)フードはこんなに進化した!!【後編】
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