今回、欧州連合(EU)が世界に向けて発信する、高品質な農産物のプロモーションの一環としてスペイン・ハモン・セラーノ協会(Consorciodel Jamon Serrano Espanol、スペイン・マドリード/アナ・ボッシュ・グェル会長。以下CJSE)から正式な招待を受け、スペインへ赴いた。
前編では、ハモン・セラーノとはどのような生ハムなのかや、CJSEの取り組みなどについてレポートした。後編では、ハモン・セラーノを製造する2社を取材し、飲食店にCJSE認証付きハモン・セラーノを勧める理由を深掘りする。
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塩分抑え甘み出す
人が熟成香を確認
【EJEH】
●100%家族経営の製造会社●
「ハモン・セラーノ」について簡単に復習すると、「白豚の後ろ足を骨付きのまま塩漬けし、乾燥・熟成させた生ハム」を指す。
高品質なハモン・セラーノを海外へ広めるべく設立されたスペイン・ハモン・セラーノ協会(以下、CJSE)の規定では、①スペイン産白豚のみ②熟成期間は1年以上③伝統的手法で製造──の3つの厳しい基準をクリアし、かつ品質の高いもののみがCJSE認証付きハモン・セラーノとして、日本をはじめとした海外へ輸出される。
このCJSEに加盟する19社のうちの1社であるEmbutidos y JamonesEspana e Hijos(エンブティドス イ ハモネス エスパーニャ エ イホス、以下EJEH)は、ミゲル・エスパーニャさんが1986年にラ・マンチャ州トレドで創業したのが始まりだ。
600㎡の小さな腸詰工場として始まった同社は、現在では200人のスタッフと計2万5000㎡を超える複数の施設を擁するまでに発展した。今はミゲルさんの4人の子供がそれぞれの部門を担当し、ハモン・セラーノをはじめハモン・イベリコやロモと呼ばれる生ハム、サラミの一種のフエなども製造する。世界70カ国以上への輸出事業が同社の全売上の40%を占め、日本でも販売する。
同社では年間60万本のハモン・セラーノの製造が可能で、契約している養豚場から厳選された生肉をチルドで仕入れ、1日で5000本分の生ハム加工を行う。
ミゲルさんの四男で輸出部長のルベンさんは、「ハモン・セラーノは骨付きの状態で熟成されなければならない。骨を抜いた状態のものや成型ブロックで熟成されたハモン・スペックは歩留まりが良く、当社でも製造しているが、規定によりハモン・セラーノとは呼べない」と話す。
なおスペイン国内では、生活習慣の変化などからハモン・スペックが人気なのだとか。
●長い年月と丁寧な工程で製造●
次にハモン・セラーノの一般的な製造工程を、同社独自の製法を交えながら説明する。
①整形と血抜き
最初に後ろ足の余分な脂肪などを取り除いて形を整える。「CJSE認証製品用には、長期熟成に適した、脂肪がしっかり乗った肉厚の後ろ足を使用する」(ルベンさん)という。この時、イタリアのプロシュートは皮を残すのに対し、ハモン・セラーノは皮を一部はぎ取る。これにより塩分がより浸透しやすくなり、水分も抜けやすくなる。
その後、味の雑味や腐敗の原因となる肉の中に残っている血液を手作業で押し出す血抜きを行う。これは塩漬けの途中など複数回にわたって行われることもある。
②塩漬け
粗塩で全体が隠れるように埋め、低温で塩漬けにする。塩の浸透圧で肉の水分を抜き、腐敗を防ぐとともに保存性を高めながら生ハム特有の風味を作り出す工程だ。塩漬け期間は肉の重量によって調整され、一般的に肉1㎏あたり1日が目安とされる。
同社ではスペイン産の海塩を使用し、他社よりも塩の使用量は10%少ない。「塩分が少ないと乾燥するのに時間がかかり、その分熟成期間が長くなる。コストはかかるが、その方がより甘みが出ておいしくなる」と、その理由を説明する。
またCJSE認証製品用の原木にはタグが付けられており、重量やいつ塩漬けしたかなどの工程がすべて記録される。塩以外の保存料などは一切使用しない。
③塩抜き・洗浄
塩漬けの期間が終わると、肉の表面に付着した余分な塩を水で洗い流す。この工程で最終的な塩味の加減を調整する。
④乾燥
洗浄した原木を吊るし、約1~2カ月乾燥させる。これにより塩分を肉の内部まで均一に浸透させながら、表面をゆっくりと乾燥させる。この段階で肉のたんぱく質が分解され始め、柔らかくなる。
⑤熟成
ハモン・セラーノの風味と香りを決定づける、最も重要な工程だ。温度や湿度を完全管理した熟成庫に吊るした状態で長期間熟成させる。「セラーノ(山の)」の名の通り、かつては山岳地帯の冷涼な気候で、春から夏、秋へと変わる温度と湿度の変化にさらすことでゆっくりと熟成を進めていたが、同社の工場でもこの環境を再現している。
ハモン・セラーノは通常9カ月以上熟成すれば販売できるが、CJSE認証製品は最低1年以上の熟成が必要だ。
さらに同社では最終チェックとして、熟練のスタッフが専用の道具を肉に刺し、道具に付着した熟成香を嗅ぐ。ここで品質基準に満たないものは除外される。
「この作業は香りに対する鋭敏な嗅覚が求められるため、絶対に煙草を吸わない人が任される」という。かつてはこの道具には馬の骨などが使われていたが、現在はプラスチック製だという。
こうして長い年月と厳しい基準で丁寧に製造された同社のハモン・セラーノのうち、80%の原木は真空パックされて輸出用やレストラン用に、残り20%はメルカードと呼ばれる市場で売られる。









