スパニッシュやイタリアンをはじめ、居酒屋でも人気の「生ハム」。しかし、スペインで広く親しまれている「ハモン・セラーノ」は、どんな生ハムなのか、知らない人も多いのではないだろうか。お客さんに提供する際にきちんと説明できれば、体験価値の創出や顧客満足度の向上にもつなげられそうだ。
このほど、欧州連合(EU)が世界に向けて発信する、高品質な農産物のプロモーションの一環としてスペイン・ハモン・セラーノ協会(スペイン・マドリード/アナ・ボッシュ・グェル会長)から正式な招待を受け、スペインへ赴いた。前編と後編に分けて、ハモン・セラーノの魅力を深掘りする。
協会の厳格な基準クリアした
高品質なハモン・セラーノを
●ハモン・セラーノってどんなハム?●
「店でハモン・セラーノを扱っているけど、実はよく知らない」という人も多いだろう。
ハモン・セラーノは簡単にいうと、「白豚の後足を塩漬けし、乾燥・熟成させたもの」。この製法は2000年以上前から続けられてきた、歴史法だ。ハモンは「後足」、セラーノは「山の」という意味で、元々は山岳地域で生産されてきたことに由来する。ちなみに前足(パレタ)を使用したものは「パレタ・セラーノ」と呼ばれる。
スペインは1986年にEUに加盟し、3年後にEU加盟国として肉類食品の輸出が許可された。それに伴い、スペイン国内で製造するハモン・セラーノの中でも、より高品質な商品を輸出して国際市場での認知を高めようと、90年にスペイン・ハモン・セラーノ協会が設立された。
同協会はスペイン国内の主要なハム製造企業19社で構成されており、ICEX(スペイン貿易投資庁)からの公式認定も受けている。伝統的な製法を遵守し、独自に設定した厳しい品質基準を設けることで、ハモン・セラーノの品質とブランドを守ってきた。
現在、協会が認定する高品質なハモン・セラーノは「ハモン・コンソルシオ・セラーノ」として約60カ国に輸出されている。輸出総額は年間9億円で、ハモン・セラーノ全体の輸出額の65%を占める。
「でも、認証があってもなくてもそんなに変わらないんじゃない?」という疑問が生じるかもしれない。そこで、協会の認証を受けるための厳格な基準を解説しよう。
①スペイン産白豚のみ
原料は、「100%スペイン産白豚の骨付き後ろ足」であること。これは、養豚から生ハムに加工するまでのすべてをスペイン国内で行われることを意味する。なお骨を抜いた状態で熟成させたハムはこの規定を満たさないため、ハモン・セラーノとは呼べない。
品種は脂肪が薄く赤身が多いランドレース種が一般的だが、近年、脂身が多く味わいが良くなるとされるデュロック種が流行りなのだとか。
②熟成期間は1年以上
EUの規定では、熟成期間が30週を超えればハモン・セラーノと呼べるが、協会の認証を受けるためには、これを大きく超える「最低52週以上」、つまり1年以上の熟成が必要となる。また熟成期間に燻製はしない。
長期熟成された高品質なハモン・セラーノの表面には、時折白い斑点や結晶が見られることがある。これは塩ではなく、旨味成分が結晶化したものだ。協会は、「これは当会の望む、『高品質なハモン・セラーノ』の象徴的な状態だ」という。
また、一部の製造元では、漬ける塩をあえて平均より10%ほど少なくする。その分、熟成期間は長くなりコストは増えるものの、より甘みのあるハモン・セラーノが作られるのだという。
③伝統的手法で製造
ハムを熟成倉庫へ吊るす際など、多くの工程で機械化もされているが、熟練した品質管理責任者がハムを一つひとつ手で触り、弾力や香りなどを検査・管理することが必要となる。
この職人技により、機械では判断できない、最もおいしくなるタイミングを感覚的に見極める。その上で協会の品質監督者が各社を訪問し、手作業で検査する。
これらの厳しい基準をクリアしたハモン・セラーノだけが、セラーノの「S」の文字を模したデザインの焼印またはシールを付与され、海外市場での品質保証となる。
●高品質のハモン・セラーノを海外へ●
2025年に35周年を迎えた同協会のミッションは、あくまで「高品質のハモン・セラーノを国外にプロモーションすること」のため、販売方法や価格面での規制は設けておらず、各企業の裁量に任せている。
また、協会の公式認証は国外向け商品のみに付けられる。つまり、日本で販売されているハモン・セラーノの原木に焼き印が、商品に認定シールが貼ってあれば、協会のお墨付きというわけだ。店にあるハモン・セラーノにこのマークがあれば、胸を張ってお客さんに提供できるだろう。
日本ではハモン・イベリコの方が知名度は高いものの、生産量全体ではイベリコが7%、セラーノが93%と圧倒的に多い。協会は「もちろんイベリコもおいしいが高価な一方、セラーノはおいしい上にリーズナブル」という。
日本のセラーノやイベリコなどを含めた生ハムの輸入量は、総重量数としては2022年以降で約3倍に拡大するなど急激に伸びている一方で、「生ハムはどれでも同じだから何でもいい」という誤解も根強い。
そこで協会では、ハモン・セラーノのおいしさを日本でも広く知ってほしいと、東京・西麻布のスペイン料理店「フェルミンチョ」のオーナーシェフ・作元慎哉さんをアンバサダーに任命した。
作元さんは、「ハモン・セラーノの旨味や塩味、脂の甘味を、日本の出汁や薬味と重ねることで、動物性・植物性双方のグルタミン酸が重なりうま味が増す」と、刻んだみょうがをハモン・セラーノにのせた〈ハモン・セラーノとミョウガのサラダ〉や、そばにハモン・セラーノを添えた〈ハモン・セラーノの冷やし蕎麦〉、和の定番「焼きナスの出汁漬け」をハモン・セラーノの薄切りとともにアレンジした〈焼きナスの煮浸し ハモン・セラーノ添え〉といったメニューを提案する。
協会は、「日本の飲食店が生ハムを選ぶ時に、協会認定マーク入りのハモン・セラーノを選んでほしい」と期待を寄せる。
後編では、ハモン・セラーノがどのように作られているのか、協会所属の2社で実際に見学した製造工程の様子をレポートする。
肥育から製造まで〜「認証付き」を知る ハモン・セラーノの魅力に迫る ●後編●【スペイン・ハモン・セラーノ協会】
https://foodfun.jp/archives/72831










