サメ肉と聞くと、まず「臭い」とのイメージを持つ人が多いのではないだろうか。そして、江戸時代からはんぺんにはサメ肉のすり身が使われているということも、あまり知られていないかもしれない。そんな中、匂いのない新鮮なサメ肉に付加価値を付けて、漁業のサステナビリティにも貢献しようと取り組む企業がある。
フカヒレを主体とした中華食材の製造・販売などを手掛ける中華・高橋(東京・清澄白河、高橋滉社長)は、「ピーチシャーク」というブランド名でサメ肉製品の開発・製造に力を入れており、11月12日には〈ピーチシャーク フリッター〉1kg×10袋を発売した。
同社は、1953年に東京・日本橋にフカヒレの製造卸として事業を開始し、91年には宮城・気仙沼にフカヒレ製造拠点を設立。大手外食企業やアミューズメント施設などにフカヒレなどを販売している。
そんな中、2001年頃から環境保護団体によるサメ保護運動が活発化すると、肉の部分は元々はんぺんの原料などでしか利用されずヨシキリザメの魚価が低かったこともあり、社長の高橋滉さんは「魚体は海に捨てるという保護論者たちのデタラメに押しつぶされたくなかった。また、若手が漁を継がないのは給料が安いから。サメ漁を継続させるには、サメ全体を活用して付加価値を付けて魚価を上げるしかない」とサメ肉の商品化に着手。当時のサメ肉はアンモニア臭かったので、いかに脱臭するかに心血を注いだが、なかなかうまくいかなかったという。
そんな中、2011年に東日本大震災が発生。キロ単価180円が損益分岐点だと言われるヨシキリザメの魚価が95円にまで下がった。そこで高橋さんは、気仙沼の復興を目指す「サメの街気仙沼構想推進協議会」を立ち上げた。漁業関係者との関係が深まる中、今まで誰も見向きしなかった鮮度管理に着目。漁獲から氷温保管で10日以内のサメ肉には全く臭いがないことが分かった。
そこからさらに試行錯誤を重ね、サメ肉のナゲットの製品化に成功。15年に気仙沼にサメ肉専用工場を設立した。製品に使うサメ肉は漁獲から6日以内のものとし、「ピーチシャーク」とのブランド名を付けて販売するとサメ肉への抵抗感も薄れ、〈ピーチシャーク ナゲット〉はエー・ピーホールディングスの「四十八漁場」など大手外食企業などで採用されるようになった。
さらに「すり身から切り身、そして刺身へ」との想いを実現するため、刺身の昆布締めも開発。23年、東京駅構内の回転寿司店「羽田市場」で〈ピーチシャークの昆布じめ〉の握りと刺身が期間限定で提供された。魚価についても同社のサメ肉販売動向と合致するように上昇し、23年には平均245円にまで上がった。高橋さんは「300円くらいで落ち着くのが理想」と語る。
今回、ふわふわとした柔らかい身質で食べやすいというサメ肉の特徴を活かしつつ、さまざまな料理に合わせやすい商品として〈ピーチシャーク フリッター〉を発売。高橋さんは「サメ肉は脂がないので油を合わせた方がおいしい。刺身は味がなく水っぽくてドリップも多いので、昆布締めが一番だろう。『羽田市場』で試験販売したが、さらなる改良に取り組んでいる」と語った。
サメ肉については「骨がなく空気を含んでいるので固くなりにくく、煮魚などにしても味が染み込みやすい。また、味がないのでどんな味付けにも合わせやすく調理しやすい点も特徴だ。骨が嫌いな人や老健などでも支持されている。外食向けでは加工品を中心に販売する予定だ」とのこと。同社は市場での購入から加工・製品化・販売まで一気通貫していることと、気仙沼でサメ肉とフカヒレの両方の工場を保有するのは同社だけという点を強みとする。
今後については「まだ気仙沼のサメ全体の8%程度しか取り扱っていないので、10倍の伸びしろがある。25年4月期にはサメ肉メニューを導入する有名外食チェーンを10社以上とし、26年4月期にはサメ肉を惣菜や鮮魚として導入する有力スーパーを10社以上にする」との目標を掲げる。そして資源に問題のない原料を使っていることを証明するトレーサビリティシステムを導入している同社は、将来的には自社船を仕立てて漁業へ参入し、サステナブルな「儲かる漁業」の確立を目指すとしている。