某月某日、東京・田町の「大衆パラダイス 芝浦ホルモン」へ入店。店員さんの案内で2階へ通されると、ひと仕事終えたとおぼしき近隣の会社員グループが、東京・芝浦市場直送の新鮮なホルモンを炭火七輪でじゅうじゅうと焼き、店内はモクモクと煙が充満中。昭和を思わせる店内にはお品書きを書いた赤札が所狭しと吊り下がり、よくある普通においしいホルモン店の光景だ。
これから始まる酒池肉林に心を震わせながらふと周りを見渡すと、どこのグループの卓上にも、ぎっしり氷が詰まったジョッキがいくつも置かれている。ここはハイボールがうりなのかな? と思いきや、ジョッキには「アイス・ドラフト〈生〉」のロゴがバーンと付いている。ドラフト、ということはビール? ビールなのになんで氷があんなにぎっしり入っているの?? しかも何だかみんながみんな飲んでるんですけど???
そういえば、店内にも〈アイス・ドラフト〈生〉〉のポスターがあちこちに貼ってある。慌ててメニューを見ると、サントリーの〈ザ・プレミアムモルツ 樽生〉490円(税別・以下同)や〈角ハイボール〉390円などに並び、〈アイス・ドラフト〈生〉〉390円とあった。これかぁ!! こんなに大勢が飲んでいるなら、試さぬ理由はない。さっそくホルモンと一緒に注文。
すぐに運ばれてきた〈アイス・ドラフト〈生〉〉は、やはりジョッキの縁までぎっしり氷が詰まっている。乾杯をしたあとにちょっとだけ口を付けると、キンキンに冷えたなかにもホップの爽やかな香りが立ちのぼり、強炭酸が舌や喉を刺激する。うん、ちゃんとしたビールだ!
焼き立ての熱々ホルモンを口に放り込むと、とろける旨味がじゅわっと舌の上で暴れ、弾力のある肉はいくら噛んでも臭みがない。つまり大変おいしい。そこへ〈アイス・ドラフト〈生〉〉をグビグビ煽ると、こってりした脂をたちまち流し去り、口の中は再びさっぱりする。
ぷはーっとため息をつき、またホルモンを口に運び、滋味を味わってから〈アイス・ドラフト〈生〉〉を流し込む……と、ひたすら食べる&飲むの永久機関になってしまう。
「〈アイス・ドラフト〈生〉〉は、ホルモンのようなこってりした味付けにとても合うんです」とは、「大衆パラダイス 芝浦ホルモン」を運営するK.O.PROJECT(ケーオープロジェクト/東京・品川)の今東俊雄社長。
確かに口の中の脂っぽさが〈アイス・ドラフト〈生〉〉でリセットされることや、熱い七輪のそばに置いていてもぬるくならない点もいい。
〈アイス・ドラフト〈生〉〉開発に携わったビール商品開発研究部の新村杏奈さんは、「氷を入れておいしく飲める」ことに徹底的にこだわり、100余りの試作を繰り返したという。
「このビールを開発したきっかけは学生時代の体験です。私はビールが大好きで、飲み会ではひたすらビールを飲み続けるんですが、友人は1杯目はとりあえずビールでも2杯目は他のお酒に行ってしまう。こんなにおいしいのに! と歯がゆく、みんながずっと飲めるビールを作りたいと考えてサントリービールに入社しました」というぐらい、新村さんはビール好きなのだ。これは期待できる。
まずは飲食店でビールがどう飲まれているか調べたところ、1杯目を飲むのにかける時間は10分以内が最多だったが、2杯目以降は20~30分程度かけるケースが多いと判明。
また、居酒屋で2杯目にビールを選ばない理由として最も多かったのが、「冷たさがキープされないから」だったという。
思い起こせば、記者も飲む時は杯を重ねるごとに時間をかけて飲むようになり、炭酸が抜けたりぬるくなったりしておいしくなくなるビールは敬遠する傾向にあったなぁ。
そこで同社は、最後まで味がいいまま冷たく、飲みごたえがある氷専用ビールの開発に着手。結果、希少品種の米国産レモンドロップホップを採用し、煮沸後の麦汁にホップを投入する「レイトホッピング製法」により、氷を入れても爽やかな香りとしっかりした味わいが最後まで維持できるようになった。
しかし、〈アイス・ドラフト〈生〉〉は泡が消えるのが早い。通常のビールだと泡がフタになるから炭酸が抜けづらくて云々……となるが、山ほど入っている氷がキンキンに冷やし続けるため、炭酸はほとんど抜けない。だから時間をかけて飲んでも、おいしさをキープしたまま飲み続けられるのだ。うーん、よく考えられている。
今東さんも「〈アイス・ドラフト〈生〉〉を導入する前は、ハイボールとカニバるのではないか」と心配したという。「ところが実際に販売してみたら、ハイボールを好むお客さんでも、最初の一杯目はビールが飲みたいという心理にうまくマッチしました」と笑う。
〈アイス・ドラフト〈生〉〉は、冷やした甲類焼酎がベースとなる〈ホッピー〉と立ち位置的に似ている。異なる点は、〈ホッピー〉はコクがありまろやかな後味があるのに対し、〈アイス・ドラフト〈生〉〉はキレがあり、後味がスッキリしている点だ。ホルモンや焼肉などこってりした味付けの料理には〈アイス・ドラフト〈生〉〉が合う。
また、〈アイス・ドラフト〈生〉〉専用ジョッキの下部に施された十八角形のレリーフが繊細な高級感を醸し出すため、意外なほど安っぽくない。女性でも気軽に楽しめるよう、重量を〈ザ・プレミアムモルツ 樽生〉用ジョッキの750gよりも軽い475gに設定。容量は380mlだが、氷をぎっしり入れるため実容量はさらに少なくなる。もともとのアルコール度数は7%あり、氷が溶けても4.5%程度になる。
この、「氷を大量に入れて提供する」スタイルがミソだ。この方法であれば、高いビールの原価率をぐっと下げながら利益率が上げられる。今東さんも「〈アイス・ドラフト〈生〉〉は飲食店にとって利益を上げやすく、良い商材だと思う。ホルモンのようなこってりした味付けにさっぱりして合うので、今後は全店舗へ導入を予定している」と、思わぬ効果にニッコニコだ。
ちなみにどれだけ原価率が下がり、どれだけ売上がアップしたのか? それについては、サントリーさんに直接聞くか、日本外食新聞2019年6月15日号を読んで下され!
現在、〈アイス・ドラフト〈生〉〉は1日20杯程度の出数で他商品とのカニバリもなく、酒類全体の売上増にも貢献しながら、「酒離れ世代」と言われる20~30代利用客の評価が特に高いというからすごい。
サントリーも販売店舗の好反応を武器に攻勢をかけていく。今後は大衆酒場や横丁、ビアガーデンを中心に提案していき、年内3000店舗での取り扱いを目指す。
また、〈アイス・ドラフト〈生〉〉が飲める店舗の検索サイトを「サントリーグルメガイド」内に開設し、利用者が手軽にアクセスできる体制を整える。
さて、〈アイス・ドラフト〈生〉〉は今夏、本当にブレイクするのだろうか――目が離せない大谷翔平選手級?の「大型新人ドリンク」であることは間違いなさそうだ。 (宮木恵未記者)
◆〈アイス・ドラフト〈生〉〉が飲めるお店|サントリーグルメガイド◆
https://gourmet.suntory.co.jp/webspecial/icedraft/