「障害者差別解消法」をご存じだろうか。「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が正式名称で、この法律により、飲食店やホテルなどでは、正当な理由がない限り盲導犬の入店受け入れが義務づけられている。
障害を理由とする差別の解消の推進
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai.html
しかし、2016年の施行から5年が経った今も、視覚障害者に対する社会の理解はなかなか進まない。
公益財団法人日本盲導犬協会(井上幸彦理事長)は、盲導犬ユーザーから相談が寄せられた盲導犬同伴による受け入れ拒否への対応事例を、毎年集計して公開している。
2020年度は20年4月1日~21年3月31日の期間で集計。同協会所属の盲導犬ユーザー227人(男性104人・女性123人)から回答が寄せられた。
すると、コロナ禍で外出機会が減るなかでも、解決が難しく協会が対応した事例が34件あった。しかも、盲導犬の受け入れを拒否した事業者の半数は飲食店だったのだ。
さらに盲導犬ユーザーへの聞き取り調査からは、新型コロナウイルス感染を理由とする拒否が発生していることも判明した。
■約半数が「飲食店」による受け入れ拒否
34件のうち、受け入れ拒否が起きた場所としては、飲食店が16件(47%)で最多。次に医療機関の8件(24%)、小売店の3件(9%)が続いた。
同協会によると、直近3年間の対応件数を合計した数字でも、飲食店47%、医療機関17%、小売店7%の順で変わらないという。
拒否をした飲食店のうち、複数店舗を経営するチェーン店と個人店舗と比較したところ同数となり、店の業態によって拒否の割合に変化はみられなかった。
チェーン店では、多数いる従業員すべてに教育を行き届かせることが難しく、拒否が発生していた。個人店舗では、責任者が受け入れの義務自体を知らないことも多くあった。
事例①:「本社の指示で入れない」と言われた
ユーザーがカフェの予約のため問い合わせたところ、店員より「本社の指示で盲導犬は入店できない」と言われた。
協会から連絡をして責任者に確認すると、本社では補助犬の受け入れはルール化されており、該当店舗でも「盲導犬はこれまで受け入れていた」。
店長は店員の拒否について把握しておらず、「独断で断ってしまったのではないか」とのことだった。
再度店員へ法の周知をお願いし、ユーザーには「いつでも来店してほしい」とする店舗側からのメッセージを伝えた。
事例②:店長によって認識の違いがあった
過去に利用経験のある店舗にて、ユーザーの家族が先に店舗に入り盲導犬同伴であることを伝えたところ、拒否。説明を試みるが、当時とは店長が変わり「だめです」と断られた。
「盲導犬はペットではなく、受け入れる義務がある」ことを伝えたが、強く拒否されたので、諦めて食事をせずに帰った。
その後店長は自ら本社へ確認し、誤った対応であったことを知った。
本社では受け入れに関する規定は存在するものの、これまで店舗へ指導したことはなく、店長によって認識に違いが生じていた。本社から全店へ受け入れの周知を依頼した。
■受け入れ拒否の主な原因は3つ
事業者が「受け入れの義務を従業員に徹底できていなかった」など教育不足が17件(50%)、事業者が「受け入れ義務を知らなかった」が12件(35%)、事業者が「受け入れについて誤解をしていた」が4件(12%)だった。
これらのデータからも、障害者差別解消法や身体障害者補助犬法の周知が進んでいないことが明らかだ。
たとえ企業は法律を理解していても、従業員への教育が不足し、現場へ浸透していないことが見て取れる。また同じ店でも、対応者によって受け入れの可否が変わるケースもあった。
受け入れに対する具体的な懸念の声としては、シートを汚すのではなど犬の衛生面への懸念が6件(18%)、アレルギーの客がいるかもしれないという懸念が6件(18%)、犬が嚙みついたり床を傷つけたりするのではなどの犬行動面への懸念が4件(12%)だった。
そのほか、設備が整っていない、人手不足といった理由が挙げられた。
正当な理由なく盲導犬の受け入れを拒否することは、障害者差別解消法における「不当な差別的取り扱い」に該当してしまう。
そのほか、身体障害者補助犬法では施設側に盲導犬や介助犬、聴導犬など補助犬の受け入れが義務づけられており、各自治体の食品衛生法施行条例でも補助犬の入店を認めている。ちなみに受け入れに際して、特別な設備などは不要だ。
■無料のオンラインセミナーで正しい理解と対応を
同協会では、Zoomを利用した、盲導犬ユーザーの受け入れや視覚障害者への接客について解説する「オンライン 盲導犬ユーザー受け入れ・接客セミナー」を無料で定期開催している。
「自分の働いているお店や施設に、盲導犬ユーザーが来た時の対応方法を知りたい」「自分が働いているお店や施設を、視覚障害者にも利用しやすい場所にしたい」「従業員教育として一緒に働いている従業員へ盲導犬の受け入れについて周知したい」といった人にはオススメだ。
・飲食店向け「オンライン 盲導犬ユーザー受け入れ・接客セミナー」 https://www.moudouken.net/news/article/page_584.php 対象者:飲食店にお勤めの方、飲食店の管理者・責任者 日程: 内容: ※各日程、同じ内容 申込フォーム:https://ws.formzu.net/fgen/S23668201/ お問い合わせ先:ご不明な点がある際は、以下にお願いします。 日本盲導犬協会 仙台訓練センター |