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半永久的に搾りたての生酒を味わえる〈凍眠生酒〉って何?【テクニカン×26酒蔵】

2023年5月25日 2:27 pm

 日本酒離れが叫ばれて久しいが、日本酒好きは意外にいる。通常、日本酒は「火入れ」と呼ばれる加熱による殺菌処理を施して長期間保管できるようにするのに対し、「生酒」は火入れを一切しない。

 搾りたての生酒はフルーティで瑞々しい口当たりが特徴で、そのフレッシュ感からファンも多い。反面、火入れをしないため劣化が早く、鮮度保持が難しいという弱点もある。

 そんな繊細な生酒を、搾った瞬間のおいしさをそのまま、半永久的に止めることができたら──?

 リキッドフリーザー「凍眠(とうみん)」の製造販売を手がけるテクニカン(神奈川・センター南、山田義夫社長)は、〈獺祭〉で人気の旭酒造や南部美人など26の酒蔵とコラボレーション。

 「凍眠」で凍らせた搾りたての生酒36銘柄を〈凍眠生酒〉として、冷凍状態で同社のECサイトで5月19日から、ポップアップストア「TOMIN FROZEN」(神奈川・仲町台)で5月20日から販売している。

〈凍眠生酒〉ラインナップの一例

■急速凍結でシャーベット状にならず瓶も割れず劣化もしない

 きっかけは、〈凍眠生酒〉用に日本酒を卸している南部美人(岩手・二戸)代表の久慈浩介さんが高知へ行った際、「凍眠」で冷凍したカツオのたたきを食べたことにはじまる。生のものと食べ比べしたところ、全く遜色ないおいしさだったのだ。

 「これは日本酒にも使えるのではないか」──そう考えた久慈さんは、さっそく「凍眠」のデモ機を導入して実験を重ねた結果、「凍眠」で中心温度が-30℃になるまで一気に凍らせるのでシャーベット状にならず、凍結後は通常の冷凍庫で保存できる。「これはいける」という確信に至った久慈さんがいう。

 「普通に日本酒を冷凍した場合、水とアルコール分が分離してしまい、味が大幅に劣化してしまう。また凍結時に水分が膨張して瓶が破損するため、日本酒を冷凍するという発想がそもそもなかった。しかし『凍眠』なら20分でほとんど分離せずに完全凍結するため、味が変わらない。また水分が膨張せずに凍るので瓶も割れない」

 久慈さんは、岩手県工業技術センターに、搾りたての生原酒と「凍眠」で凍結した生原酒の官能検査を依頼。結果は下表の通り、数値的な差はほぼなかった。

南部美人のサイトより引用

 さらに「凍眠」で凍結後に半年間冷凍保存した生酒と、-5℃で同期間冷蔵したものを比較分析した。
 冷蔵品(下表下段)は、劣化成分とされるイソアミルアルコールやアセトアルデヒドやなどが増えたのに対し、冷凍品(下表上段)は品質が安定していることが判明したという。

南部美人のサイトより引用

 5月18日に「TOMIN FROZEN」で開催された〈凍眠生酒〉試飲会には、南部美人をはじめ19の酒蔵が登壇。参加者たちはさまざまな〈凍眠生酒〉を楽しんだ。

試飲会に集った19蔵元

■飲食店での導入で目的来店の集客にも

 飲食店で搾りたての生酒を半年後、それこそ20年後でもそのまま味わえるようになれば、「子供が生まれた年に搾った生酒を飲みに行きたい」という目的来店の集客にもつなげられそうだ。

 現在、東京・中目黒のやきとん店「まこちゃん 中目黒店」で〈凍眠生酒〉を味わえる。「今後は取扱店舗を増やしていき、全国の飲食店で楽しめるよう計画している」(テクニカン)という。そのほか参加する蔵元や銘柄の拡大、海外への輸出も視野に入れたい構えだ。

 久慈さんは、「輸出の輸送方法で最も多いのは常温輸送、次に冷凍輸送。『凍眠』の技術を使えば、ブラジルでも搾りたての生酒を楽しめるようになるといった高い付加価値が生まれる」と期待を寄せる。