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〈LINE@〉でリピーターを獲得する方法とは【 串カツ田中ホールディングス取締役・大須賀伸博氏インタビュー】

2018年7月2日 12:45 pm

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〈LINE@〉を導入しリピーター獲得に活用 3年後の現在は 折込広告と並ぶ販促ツールに

今回は、串カツ田中ホールディングス(東京・五反田、貫啓二社長)の営業戦略を担当する大須賀伸博・取締役営業本部長に話を聞いた。“大阪伝統の味”をうたって急成長している「串カツ田中」は、2008年に東京・世田谷の住宅街で創業し、直営・FC合わせて177店舗(2018年2月21日時点)を展開する。住宅街立地とファミリーを含むリピーター集客に強みを持ち、3年ほど前から全店に導入した店舗・企業向けコミュニケーションツール〈LINE@〉(※注1)も、店舗現場のリピーター施策の1つだという。現在は利用客の〈LINE〉から「串カツ田中」各店舗の〈LINE@〉アカウントへの「友だち登録」数が全店で40万人(有効友だち数)を超え、新聞の折込広告と並ぶ効果を発揮する有力な販促ツールとなっている。どんな経緯で導入し、どのように活用してきたのだろうか。

※注1:〈LINE@〉はLINE株式会社が提供する店舗・企業向けコミュニケーションツール。QRコードなどを使って利用客に「友だち登録」してもらうと、通常の〈LINE〉を踏襲した親しみやすい使い勝手の「メッセージ一斉配信」「1:1トーク」「タイムライン」などの機能を通じて、店舗・企業側から利用客向けに商品(店舗)の魅力を発信できる。割引クーポンやアンケートの発信、ポイントカード機能の提供も可能だ。

「串カツ田中」では〈LINE@〉を「重点販促ツール」と位置づけている。導入の経緯を教えてほしい。

大須賀 〈LINE〉の公式アカウントは顧客の分析機能などが豊富だが、利用料金が高額で、われわれのような中堅の外食チェーンが契約するのは難しかった。ただ、月額0円から利用可能で、低価格で使えるプランのある〈LINE@〉ならば手軽に、トライアル的にも導入できる。そこで、3年ほど前に、〈LINE@〉の無料プランを全店一斉に導入した。

自社アプリの製作・導入は考えなかったのか

大須賀 検討はしたが、当時はまだ自社アプリの製作費が高額で、運用コストもかさむので、ハードルが高いと判断した。その点、〈LINE@〉であれば、インフラが整っているところにのっかっていくだけなので、運用面のリスクも低い。また、われわれが当時、第一に考えていたのは、アプリ自体の機能を使って集客の効果をあげたいということよりも、各店舗で自主的に取り組めるリピーター施策が何か欲しいということだった。店舗スタッフが、自ら進んで、お客様との接点を作っていくには、どうすればいいかをあれこれ考えていて、お店のオペレーションに組み込めるリピーター施策として〈LINE@〉を選んだ。

「オペレーションに組み込める」というのは?

大須賀 「串カツ田中」では、お客様の入店時に必須のオペレーションとして「初めてのご利用ですか?」と聞いている。初めての場合は、ソースの2度付け禁止などのルールのご説明をしなければならないからだ。〈LINE@〉を導入することによって、こうしたオペレーションの一環として、お客様に話しかける機会がもう1つ増える。

 初めてのお客様を中心に、〈LINE@〉への「友だち登録」をお薦めできるからだ。さらに、「友だち登録」をしていただいたお客様にはその後、〈LINE@〉の機能でメッセージや割引クーポンなどを配信して、リピーターになっていただくための取り組みを続ける。こうしたお客様との接点作り、コミュニケーションの試みを繰り返して、現場スタッフに成功、失敗の体験を積んでもらいたいと考えた。

串カツ田中では、〈LINE@〉の全社アカウントと各店舗アカウントを併用していると聞いているが、その狙いは。

大須賀 全社のアカウントに加えて、各店舗にアカウントを持たせているのは、「友だち登録」者の数の測定が店舗ごとにできるからだ。全社のアカウントだけ持っていても、全体の登録者数は分るが、店舗ごとの登録者数は出てこない。各店舗でアカウントを持っていれば、「友だち登録」者数が店舗ごとに把握でき、評価も可能になる。

 具体的には、新規来店のお客様数に対して、「友だち登録」してくれたお客様数の比率である「月間獲得率」を毎月、店舗ごとに追いかけていって、獲得率が高い店舗は表彰するといった取り組みをしている。全店舗が、最初は無料プラン(現在の名称はフリープラン)でスタートし、「友だち」が増えた店舗から有料プラン(現在はベーシックプラン、プロプラン)に切り替えていった(※注2)。最近では、全店舗の約8割がベーシックプラン(月額税込5400円)になっている。プロプランになった店舗もあるが、全体で10店舗程度だ。

※注2:〈LINE@〉の利用料金は「ターゲットリーチ数」(メッセージ配信などをブロックしていない「有効友だち数」のなかから、年代、性別、活動エリアなどの大まかな属性を推定できるユーザー数のこと)によって変わる。月額0円の「フリープラン」はターゲットリーチ数×吹き出し数1000通までメッセージ配信が可能。月額5400円(税込)の「ベーシックプラン」はターゲットリーチ数5000人以内なら無制限でメッセージ配信可能。月額2万1600円(税込)の「プロプラン」はターゲットリーチ数10万人以内なら無制限でメッセージ配信可能。

現在の「月間獲得率」はどれくらいなのか。

大須賀 多くの店舗では「月間獲得率」100%が当たり前のようになってきている。上位の店舗になると、200%くらいまでいく。100%以上は、既存顧客の中から「友だち登録」者を獲得した結果だ。つまり、200%は、新規顧客でほぼ100%獲得した上で、それとほぼ同数の「友だち登録」者を、既存顧客の中から獲得したことになる。

〈LINE@〉に限らず、販促ツールを導入しても、現場が使ってくれないという悩みを抱える企業も多い。「串カツ田中」の店舗現場での反応は当初、どうだったのか。

大須賀 本社ではあまり苦労することなく、現場に浸透した。現場スタッフのほとんどが自分でも〈LINE〉を使っているので、〈LINE@〉の使い勝手に関するハードルはそもそも低かった。また、「友だち登録」をお薦めする際にも、POPやチラシなどに印刷されたQRコードを見せて、スマートフォンで撮ってくださいと言うだけなので、現場のオペレーション負担も相当、軽かったと思う。

串カツ田中では、経営理念の3本柱の1つとして「スタッフの笑顔」をあげ、ボーナスの年4回支給など、スタッフの待遇改善にも非常に積極的だ。

大須賀 売上優先ではなく、「みんなで楽しく働こう」という目標を設定し、全社的に力を入れている。ツール導入でも売上優先だったら、「登録者をたくさん取ってこい!」といった形で、体育会的にノルマを課すような形になってしまうと思うが、当社の場合は違う。〈LINE@〉は現場の接客がしやすくなるツールという位置づけで導入したので、スタッフは楽しく、有意義に使ってくれているのではないか。導入当初からお客様への特典も用意しており、〈LINE@〉に「友だち登録」していただいたお客様には、その日に、お好きな串カツを1本、無料でサービスしている。

 また、その後もお得な割引クーポンなどを配信しているので、「お得な情報が来ますよ」という形で、笑顔で「友だち登録」をお薦めできる。こうしたサービスで、「ご来店いただくお客様を笑顔にすること」も当社の掲げる理念の1つだ。

当初は、店舗によって獲得率にはばらつきが出たと思うが。

大須賀 獲得率が上がるきっかけになったのは、薦め上手なスタッフがいるおかげで、優秀な成績をあげる店が出てきたことだ。導入後しばらくして、千葉県の直営店舗が、1カ月に普通の店の2~3倍の「友だち登録」数を獲得した。その後は、そうした成功事例を、月に1度の店長会議や、社内SNSへの投稿などを通じて、全社で共有していった。

 例えば、入店してすぐのお客様に、「友だち登録」をお薦めしても、なかなか登録してくれない。入店後、1時間くらいして、ある程度、お店のスタッフと会話をした後だと登録してもらえる可能性が高い。そんな成功例、失敗例を共有することで、全体の成績が上がっていった。

メッセージの配信は、店長の判断で、各店舗から実施するのか。

大須賀 導入当初はそうしていたが、1年ほど前から、8割程度は本社からコントロールする形に変えた。現場の店長や、10店舗前後の店舗を統括しているエリアのマネージャーなどの判断で、本社にクーポン配信などのリクエストが来る。そのリクエストに従って、本社から各店舗の登録者(利用客)に対して、メッセージを配信するようにしている。配信はクーポンがほとんどで、割引なら10%程度だ。期間限定の食べ放題企画などのクーポン配信も多い。

 ただ、現在も現場の権限を完全に取り上げたわけではないので、やる気のある店舗は、雨の日などに独自のクーポン配信なども実施している。ただ、店舗が独自にメッセージを配信すると、どうしてもクオリティが低くなる。本社から配信すれば、本社のデザイナーがクーポンをビジュアルにデザインして送ったりできるが、店舗からだと、極端な場合、テキストだけのメッセージになってしまったりする。テキストだけだと、メッセージを配信してもあまり読んでもらえないし、ブロックされる確率も高くなるようだ

特定の利用客と1対1でリアルタイムに連絡が取れる「1:1トーク」が集客に有効だそうだが。

大須賀 以前は活用するようにしていたが、いまは中止し、自動応答モードにしている。〈LINE〉でも同じだが、〈LINE@〉の自動応答モードをオフにすると、利用客からのトークに対して、リアルタイムで応答できる。ただ、店舗スタッフ(特に店長)が頻繁にスマートフォンをチェックしていないと、お客様からのトークを見逃す怖れがある。

 「予約したい」というトークを見逃したりすると、せっかくリピーターになってくれるはずだったお客様を失うことも考えられる。1日中、頻繁にスマートフォンをチェックして、こまめに常連客に応答できるような場合なら、「1:1トーク」は非常に有効かも知れないとは思う。

〈LINE@〉を3年間活用した結果の導入効果というと?

大須賀 新規の出店の場合、当社では最初は新聞の折込広告で周辺地域に告知し、最初の集客をする。そこは今も変わらないが、開店後に半年、1年くらいたつと〈LINE@〉の「友だち登録」者がある程度の人数になるので、定期的な折込広告の頻度は減らせるようになった。

 〈LINE@〉がない頃は、年に2~3回は折込広告を入れて集客しなければ来店客数が維持できなかったが、今は年1回程度で済む。新規顧客の獲得のために年1回は折込広告が必要だが、リピーター集客は〈LINE@〉だけで十分、可能になっているからだ。おかげで、年間6万5000円(5400円×12ヶ月)程度の〈LINE@〉への投資で、折込広告2回分、数十万円のコストが削減できている。これは、かなり大きなメリットだ。

今後は、客層別の集客戦略に力を入れると聞いているが、具体的にはどういう取り組みをするのか。

大須賀 「串カツ田中」は東京・世田谷の住宅街からスタートし、その後も住宅街立地が多いので、居酒屋的な利用ばかりではなくて、食事利用のお客様が非常に多い。そのため、会社員、ファミリー、学生といったところがメインターゲットになる。今後は、こうした客層別に、利用シーンを広げ、利用回数を増やすための取り組みをしていく。例えば、会社員、ファミリー、学生がそれぞれ来店しやすい時間帯に適当な割引クーポンを配信して、その結果を見るといった施策を試みていきたい。

〈LINE@〉のプロプランならば、ある程度、ターゲットを絞ってメッセージ配信ができる。また、〈LINE@〉に限らず、製作・運用コストが下がっている自社アプリなどを導入して、顧客データベースを整備し、属性別のメッセージを配信する施策の可能性もあると思うが。

大須賀 〈LINE@〉の料金や使える機能などの方針が変わるリスクもあるので、自社アプリや、現在はトライアル程度にしか実施していないポイントカード導入の可能性についても検討はしている。ただ当面は、個人情報は取得できなくても、導入しやすく、現場が楽しく使える〈LINE@〉を使って、きめ細かい施策を実施するほうがメリットは大きいと考えている。