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「KURAND SAKE MARKET」×〈Makuake〉(クラウドファンディング)で予約が取れない人気店に【リカー・イノベーション】

2017年10月12日 8:49 pm

  辻本 「KURAND SAKE MARKET」の冷蔵庫の一部に3本だけ、ラベルも何もない、蔵元名しか書いていないお酒が置いてあります。そのお酒を試していただいたお客様に、店舗スタッフがヒアリングしたり、アンケートをお願いしたりして、その結果を蔵元にフィードバックし、品質の改良やコンセプト作りに役立ててもらいます。こうした試みから生まれたのが今年6月から店頭に出している「八男(ヤツオ)」という日本酒ブランド。風の盆で有名な富山県八尾にある玉旭酒造と共同開発したもので、餃子のような味の濃い食べ物にもよく合う濃厚な味わいの食中酒です。「熱い男が醸した濃い日本酒!」というのがキャッチフレーズで、杜氏さん、蔵元さん、奥様の3人だけで、越中八尾の想いを込めて酒造りをしている蔵元の心意気を強くアピールしたブランドです。  

商品化前の日本酒

商品化前の日本酒

 店舗スタッフ向けの「福利厚生」も実にユニークだ。「KURAND SAKE MARKET」で働く店舗スタッフは全員、無料でお店を利用できる。営業時間内ならいつでも、好きなときにふらっとお店を訪れ、好きなように日本酒飲み放題が楽しめるのだ。もちろん、自分で働く店以外の店舗も同じように利用できる。制度を利用して、日頃からお店の日本酒に親しむスタッフが多いという。この「福利厚生」のおかげで、自然と日本酒に関心の高いスタッフが集まるし、無料の試飲を通じて、日頃から商品知識を蓄えることができる。

 さらに、利用客の立場から日常的にお店を見ることで、利用客の要望の是非も判断でき、その結果として、サービス改善のためのアイデアも各店から集まってくる。 「KURAND SAKE MARKET」は当初は立ち飲み専門の店だったが、椅子に坐ってゆっくり飲みたいという要望が数多く寄せられていたところから、店の混雑が落ち着いてきた16年9月に、全店にスツール椅子を導入した。また、同じタイミングで、それまで別料金(1杯200円)だったビールを、日本酒飲み放題料金に含めて、日本酒だけではなく、ビールも合わせて飲み放題にした。肴向けの缶詰も30種類程度に増え、1杯500円の「ちょい飲みプラン」も導入した。面白いのは、一升瓶向けの予備の王冠が日本酒を注ぐテーブル上にたくさん置いてあることだ。王冠を抜いて、お酒を注ぐうちに、王冠を床に落としてしまうことがある。その際には、落とした王冠を洗って使うのではなく、別に用意してある新しい王冠を使ってくださいというサービスだ。

  辻本 日本酒の栓には試行錯誤しました。最初は、ワインに栓して空気を抜く「バキュバン」という栓を使ったり、コルク抜きと一緒に使うフッ素樹脂の栓を使ったりして、どれが最適か試しました。その結果、やっぱり日本酒の王冠が一番、品質を保つのにはいいということになりました。ところが、王冠は、手からあやまって落とす人が多いことにスタッフが気がつきました。そこで、王冠はどれも同じサイズですから、新しい王冠に付け替えればいいと思いつき、新しい王冠をテーブルに置いておくサービスを始めました。そんな風に、お店では、細かい点まで検証して、改善していくという作業を繰り返しています。王冠は一例ですが、目指すのはあくまでカジュアルな店。日本酒の敷居を下げて、さらっと飲みに来られる店にしたい。今まで、日本酒を中心に出す飲食店は「ザ・和食」的な堅いイメージが強かったですね。「KURAND SAKE MARKET」はもう少し、ふわっとした雰囲気の店にしたいのです。そういうふわっと、カジュアルな雰囲気を気に入って、何度も来ていただいているお客様もいらっしゃいます。

蔵元の顔が見えるので親しみが湧く

 こうして作り上げてきた「飲み比べ業態」のオペレーション上の最大の強みは、キッチンレスで、ビールを含めてセルフ飲み放題のシステムのため、店舗スタッフの業務負担が小さいことだ。店舗スタッフの主な仕事は利用客が入店する際のレジのほかは、利用客の見守りとアドバイスがほとんどで、稀に缶詰の販売業務が入る程度。「KURAND SAKE MARKET」の6店舗はすべて30坪弱、50席前後の規模の店だが、それぞれを最大3人の店舗スタッフで回している。利用客が少ない日は、スタッフ1人で回すことも少なくないという。こうした軽いオペレーションを可能にしているのは、キッチンレスとセルフ飲み放題のシステムに加えて、利用客の60~70%がWeb経由の予約客という現状があるだからだ。

  辻本 Webでの集客に成功していることが、ほかの飲食店にない大きな強みだと思っています。当初はグルメサイトの登録もしませんでした。Webのプロモーションが成功したので、総来客数の60~70%がWeb上で検索し、予約をいれていただいたお客様です。だからこそ、悪立地の空中階でも、安定した集客が実現し、売上も安定しました。このあたりはヒマな日、忙しい日というのは、Web予約の入り方で事前にかなりの程度、予測できますから、スタッフの配置やローテーションも、効率的に計画できます。   やはり、「お酒にもっと新しい価値を」というコンセプトに基づく発信力と、しっかりしたWebプロモーションが「KURAND SAKE MARKET」を支える最大の成功要因なのだ。リカー・イノベーションによる「外食IT」の活用に関しては、彼ら自身がWeb上で細かいノウハウを公開している――「飲食店オーナー必見。食べログやぐるなびに依存しない、無料のインターネット集客方法まとめ」。SNSの性格に合わせて、使い方を変えるノウハウなども興味深い。さらに一歩進んで、企業とのコラボ手法まで公開している――「数店舗の飲食店が、お金をかけず様々な企業やブランドとコラボレーションする方法」。ご参考までに。 リカー・イノベーションでは今後、現状の「飲み比べ業態」の店舗を倍の規模(出店数)にする目標を掲げ、さまざまな新業態の開発も視野に置く。中長期的には、日本酒を海外にEC販売するといったグローバルな事業展開も考えているそうだ。

イベントで来店した惣誉酒造(栃木県)の販売本部長、井口晃氏(左)。蔵元との関係も深まっている