調査・統計ピックアップ

[食品メーカーの研究発表②]原生生物からオメガ3脂肪酸生成! 天然水産資源保全へ【日本水産】

2021年12月29日 10:21 am

 日本水産は、九州大学大学院農学研究院の伊東信特任教授・石橋洋平助教、宮崎大学の林雅弘教授、甲南大学の本多大輔教授らとの共同研究により、原生生物「ラビリンチュラ類」のオメガ3脂肪酸生合成経路を調査し、これまで知られている生合成経路とは異なる経路でDHA(ドコサヘキサエン酸)を生産する種があることを発見した。[国際学術雑誌「Communications Biology」電子版(Springer-Nature)に掲載]

 「ラビリンチュラ類」は、沿岸域から外洋、熱帯から極域、表層から深海まで、あらゆる海洋環境中に生息している直径10 マイクロメートル程度の単細胞真核生物。この生物は光合成を行わず、DHAを高濃度に蓄積することが明らかになっており、海洋生態系でのDHA供給源の候補として注目されている。

 今回の研究ではさらに、生合成経路を担う一部の遺伝子を破壊することで、DHA以外のEPA(エイコサペンタエン酸)やn-3 DPA(ドコサペンタエン酸)など、不飽和脂肪酸の一つであるオメガ3脂肪酸も生産できることを見出した。これにより、海洋微生物による持続可能な生産方法が産業レベルで確立できる可能性が示されたという。

 専門的な説明によると、「ラビリンチュラ類」のDHA生合成経路を詳細に調査したところ、パリエティキトリウム属のラビリンチュラが、これまで知られていた「ポリケチド様酵素複合体」による生合成経路(下図A のType Ⅰ、 Type II)を介さずにオメガ3脂肪酸を生合成していることを発見(下図Aの Type Ⅲ)。このType Ⅲの経路は、3つの脂肪酸鎖長伸長酵素と6つの脂肪酸不飽和化酵素から構成され、EPAやn-3 DPAを介してDHAを生合成することが分かった(下図B)。

 さらに、研究グループは遺伝子組換え技術を活用してこの生合成経路を担う一部の遺伝子を破壊することで、EPAやn-3 DPAといったDHA以外のオメガ3脂肪酸の生産が可能であることも明らかにした(下図B)。

 栄養学的・医学的効果で注目されているEPAやDHAなどのオメガ3脂肪酸は、世界的に需要が拡大。日本水産が機能性原料として販売しているEPAは、適切に資源管理されたペルーのアンチョビーなどから魚油を採取・精製したものだという。同社では、将来的な需要増加に備え、天然水産資源のみに依存しない持続可能な生産方法の開発に2006年から着手していた。

 微生物による機能性脂質の生産は、すでに工業化されている技術の一つであり、日本水産では、今回解明した新しい生合成経路をもとにさらなる研究開発を進めることで、将来的には遺伝子組換えによらない持続可能なオメガ3脂肪酸の供給源を獲得することを目指すという。